研究課題/領域番号 |
23657117
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
飯田 直子 国立遺伝学研究所, 分子遺伝研究系, 博士研究員 (40360557)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | RNAi / 細胞周期チェックポイント / Ago1 / Arb2化 / Ptr1 / タンパク質修飾 |
研究概要 |
RNA interference(RNAi)機構は、 Argonauteタンパク質(Ago)が中心的役割を担うsmall RNAを介した発生や細胞機能に重要な遺伝子発現抑制機構であり、 Agoを含む複数の複合体により制御されている。我々は細胞周期チェックポイント活性時のAgo1複合体形成因子としてHECT型 ユビキチンE3リガーゼ(Ptr1)を同定し、Ptr1依存的なタンパク質修飾がRNAi制御機構に関与している可能性を見出した。本研究は、RNAi因子とPtr1依存的なタンパク質修飾がどのようにヘテロクロマチン構造形成と細胞周期チェックポイントを制御しているのかを解明することを目的としている。現在は、(I)「内在性Ptr1検出系の確立」と(II)「Ptr1の標的因子のスクリーニング」について研究を進めている。(I)内在性Ptr1検出系の確立 Ptr1は分子量365 kDaのタンパク質をコードした増殖必須遺伝子であり、タグの付加が出来ない。内在性Ptr1を検出するために、Ptr1抗体を作成する必要があった。Ptr1配列の一部を大腸菌で発現させ、可溶画分に発現する領域を精製し、抗原とした。ウサギに免疫した後、精製した抗体を用いたウェスタン法で予測サイズのバンドが検出でき、Ptr1抗体が作成出来たと考えられる。(II)Ptr1の標的因子のスクリーニング1.RNAi因子とptr1の変異株について、細胞周期チェックポイント表現型を調べた。調べたRNAi因子破壊株とptr1温度感受性変異株は細胞周期チェックポイントに異常を示すことが分かり、RNAi因子とPtr1は細胞周期チェックポイントを制御していると考えられた。2.ユビキチンE3リガーゼPtr1の標的因子を明らかにするため、ptr1変異株の温度感受性を抑制する変異のスクリーニングを行った。原因遺伝子のクローニングを進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、RNAi因子とPtr1依存的なタンパク質修飾がどのようにヘテロクロマチン構造形成と細胞周期チェックポイントを制御しているのかを解明することを目的としている。細胞周期チェックポイント活性時のAgo1複合体形成因子としてHECT型 ユビキチンE3リガーゼ(Ptr1)を同定し、Ptr1とAgo複合体の関係を明らかにするため、現在、(I)「内在性Ptr1検出系の確立」と(II)「Ptr1の標的因子のスクリーニング」について研究が進んでいる。Mycタグを用いたウェスタン法により、Ptr1依存的なタンパク質修飾として、ARC複合体のサブユニットの一つであるArb2が、もう一つのAgo1複合体RITSのサブユニットChp1と共有結合しタンパク質修飾のように挙動することを見いだしている(以上未発表データ)。しかし、Myc-Arb2株が変異株様の表現型を示す問題点があり、内在性Arb2を特異的に検出する抗体が必要であった。これまで、Arb2抗体の作成は達成できていない。Arb2タンパク質は可溶画分での精製が難しく、抗原の作成が困難であった。それでも調整できた抗原を用いて免疫を行い抗体精製まで行ったが、Arb2に特異的な抗体を得ていない。これは、計画が予定通り達成されていない点であるが、下記の計画から研究を進めている。(I)内在性Ptr1を検出する抗体作成:ウェスタン法で確認したところ、Ptr1タンパク質を特異的に検出する抗体が作成できた。(II)Ptr1の標的因子のスクリーニング:ptr1の抑圧変異株が単離され、原因遺伝子のクローニングを進めている。RNAi因子とPtr1依存的なタンパク質修飾の関係について研究は進んでおり、Arb2化の解明に向けて新たな知見が得られると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
細胞周期チェックポイント活性時のAgo1複合体形成因子としてHECT型 ユビキチンE3リガーゼ(Ptr1)を同定している。Ptr1依存的なタンパク質修飾がどのようにヘテロクロマチン構造形成と細胞周期チェックポイントを制御しているのかを解明することを目的とし、Ptr1とAgo複合体の関係を明らかにする。そのために(I)「内在性Ptr1抗体を用いた細胞学的、生化学的解析」(II)「Ptr1の標的因子のスクリーニング」を行う。(I) 内在性Ptr1抗体を用いた細胞学的、生化学的解析:ウェスタン法で確認したところ、Ptr1タンパク質を特異的に検出する抗体が作成できた。この抗体を用いた免疫染色や免疫沈降法により、Ptr1の細胞内局在やRNAi因子との関連を調べていく。(II)「Ptr1の標的因子のスクリーニング」1.RNAi因子とptr1の変異株の表現型:RNAi因子とptr1の変異株について、細胞周期チェックポイント表現型を調べたところ、両者ともに細胞周期チェックポイントに異常を示すことが分かり、遺伝学的にもRNAi因子とPtr1は細胞周期チェックポイントを制御していると考えられた。Ago1とPtr1の遺伝的相互作用を二重変異株を作成し調べる。2. Ptr1の標的因子の単離:ユビキチンE3リガーゼであるPtr1の標的因子を明らかにするため、ptr1変異株の温度感受性を抑制する変異のスクリーニングを行う。現在、8株の変異株を単離しており、genomicライブラリー導入による方法と次世代シーケンサーを用いた方法により原因遺伝子のクローニングを行う。3.Ptr1標的因子のRNAi機構における機能の解析:クローニングしたタンパク質にタグを付加し生化学的にPtr1によるユビキチン化活性を調べる。また、複合体の精製を行い、RNAi機構との細胞周期チェックポイント制御に必要な因子を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
(I)「内在性Ptr1抗体を用いた細胞学的、生化学的解析」(II)「Ptr1の標的因子のスクリーニング」を行うため、酵母の培養や表現型解析のためのプラスチック器機、試薬類を購入する。さらに、各項目について以下の研究費の使用を計画している。(I)「内在性Ptr1を検出する抗体作成」:作成した免疫染色、免疫沈降法を行うため、RNAi因子やタグを検出するための抗体を購入する。(II) 「Ptr1の標的因子のスクリーニング」:変異株の原因遺伝子クローニングのため、次世代シーケンサーを用いる。そのためのサンプル調整試薬、シーケンス試薬を購入する。さらに、標的因子とRNAi因子との関係を調べるため、抗体や試薬を購入する。その他、成果発表、発表資料作成、印刷費、通信費、論文校閲のために研究費を使用する。
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