研究課題
ミトコンドリア形態変化とその機能の相関性は非常に高く、分化過程や病態環境下におけるミトコンドリアの融合・分裂のバランス制御機構解明は、多くのミトコンドリア病の発症機構の解明とその創薬支援のためにも非常に重要なテーマとなってきている。しかし、ミトコンドリア融合・分裂に関わるタンパク質群の発現は連動しているため、培養細胞を用いたタンパク質の過剰発現系やノックダウン法による解析では、その制御因子探索やメカニズム解明は非常に困難であるのが現状である。本申請研究では、ラット視交叉上核腹外側部由来の神経細胞株・N14.5の分化過程や神経変性疾患におけるミトコンドリアの形態変化を、当研究室が独自に開発してきた「セミインタクト細胞リシール法」を駆使して分析的に可視化再構成し、「神経細胞分化過程や病態環境下での」ミトコンドリア形態制御機構解析のツール構築とそれを用いた形態制御機構の解明を目指す。平成23年度は、(1)ラット視交叉上核腹外側部由来の神経細胞株・N14.5の未分化細胞(増殖型繊維芽状細胞)を用い、ミトコンドリア形態が光学顕微鏡下でGFP可視化追跡できる細胞株を樹立した。GFP可視化には、神経分化に影響を与えないことを確認されたミトコンドリア外膜タンパク質・Tom5-GFPを用い、細胞質ができるだけ広くミトコンドリアの形態変化が観察しやすい扁平なTom5-GFP恒常発現株細胞(N14.5-Tom5)をスクリーニングした。(2)セミインタクト細胞リシール法を用いた神経細胞分化に伴うミトコンドリア形態解析系の構築のため、上記未分化細胞を用いたリシール細胞作成の条件を検討した。(3)神経分化に必須のGSK3βの活性低下時に、ミトコンドリアの分裂に関わるDrp1の特定の脱リン酸化部位を同定した。
3: やや遅れている
本申請研究の平成23年度計画は、(1)ミトコンドリア形態可視化追跡細胞株の樹立、(2)セミインタクト細胞リシール法を用いた神経細胞分化に伴うミトコンドリア形態解析系の構築、(3)神経分化過程におけるミトコンドリアの形態変化を制御する細胞質因子の探索とその検証、であった。(1)に関しては、研究開始初期の段階で、ラット視交叉上核腹外側部由来の神経細胞株・N14.5の未分化細胞(増殖型繊維芽状細胞)をもとに、ミトコンドリア形態をGFP可視化できるTom5-GFP恒常発現株細胞クローンを多数得ることに成功した。しかし、GFP可視化可能な多数のクローンの内、温度依存的(本N14.5 細胞は、33℃→39℃に温度シフトすることで神経細胞に分化する)に神経細胞様に分化するクローンの選択に予想外の時間がかかった。研究計画(2)は、本研究課題を遂行するためにも最も重要な「N14.5細胞の未分化細胞からセミインタクトリシール細胞を作成し、温度シフトによりそのリシール細胞を分化させる」という基盤技術の構築に関わるものである。平成23年度において、L5178Y細胞の細胞質を導入したN14.5未分化細胞のセミインタクト細胞作成条件とそのリシール細胞作成条件を検討し、再現性良くリシール細胞を作成する条件を決定した。また、そのリシール細胞を神経細胞に分化させることにも成功した。研究計画(3)に関しては、神経分化に伴い生起するDrp1の脱リン酸化が、分化誘導時のミトコンドリア形態変化を誘起することを強く示唆する結果を得たため、ミトコンドリア形態制御因子候補の一つとして次年度に検定を行う予定である。
(1)平成23年度に樹立した細胞株(N14.5-Tom5)をセミインタクト細胞にし、そこに、分化誘導前の細胞質「未分化細胞質」、または、分化誘導(33℃→39℃)後1,2,3,4日目の細胞から調製した「分化細胞質(1d~4d)」を導入後、セミインタクト細胞をリシールして「未分化リシール細胞」と「分化リシール細胞」を作成する。次に、焦点レーザー顕微鏡を用いそれぞれのリシール細胞内のミトコンドリアの形態(特に長さの測定)解析システムを構築する。(2)神経分化過程におけるミトコンドリアの形態変化を制御する細胞質因子の候補として、GSK3β依存的な脱リン酸するDrp1を候補因子として得たため、先ずはその因子をターゲットとして、(1)で構築したシステムを用いて候補因子の機能を検定する。その結果をもとに、分化誘導によるN14.5神経分化依存的なミトコンドリア分裂の制御ネットワークを明らかにする。同時に他の因子の探索も行う。(3)上記の(1)で構築した神経細胞のミトコンドリア形態解析系を利用して、神経変性疾患のミトコンドリア形態変化の原因因子の探索と解析を行う。ターゲット病態としては、多様な病態モデルマウスが入手可能なアルツハイマー病に絞り、アルツハイマー病モデルマウス脳から調製した病態細胞質をセミインタクトN14.5-Tom5細胞内に導入し、「病態モデル細胞」を作成する。同時に、コントロールとなるwild type のマウスの脳から調製した正常細胞質を導入した「正常モデル細胞」も作成する。その後、両モデル細胞内のミトコンドリア形態を解析し、導入した細胞質内からミトコンドリア形態変化を誘導する因子を探索し、病態特有のミトコンドリア機能の低下を検定する。
平成23年度の研究成果により、本課題研究推進の基盤技術(ミトコンドリア形態解析用細胞株の樹立、リシール細胞の作成条件決定とそれを用いたミトコンドリア形態解析システム)とそのシステムを用いて検定すべき因子(Drp1とそのリン酸化を制御するキナーゼ)など材料を得ることができた。平成24年度は、検定のための因子探索を続行しながら、候補因子の実際の検定を行う。因子探索続行のため、未分化神経細胞および分化神経細胞を大量培養し、それから調製した未分化・分化細胞質からミトコンドリアの形態変化に関わる因子を生化学的手法を用いて本格的に探索する計画である。そのため、大量細胞培養に必要な器具、血清、培地などの消耗品費をまず計上した。細胞質の生化学的分画に必要な液体クロマトグラフィーカラム類などの消耗品費も会わせて計上した。また、候補因子の検定には、セミインタクトリシール細胞とリコンビナントタンパク質、免疫除去用の抗体等が必要であり、セミインタクトリシール細胞アッセイに必要な大量の細胞質調製用の細胞培養関連試薬と血清等の消耗品費、モデルマウス購入に関わる消耗品費、多様で大量のリコンビナントタンパク質調製・精製用の生化学的試薬や液体クロマトグラフィー用のカラム類などの消耗品費、また、リシール細胞内のミトコンドリア形態変化や機能変化(特に、ミトコンドリア依存的なアポ-トーシス誘導活性やATP産生能等)の解析に使用する生化学的キットや試薬類の消耗品費、等を中心に計上した。
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