研究課題
ミトコンドリア形態変化とその機能の相関性は非常に高く、分化過程や病態環境下におけるミトコンドリアの融合・分裂のバランス制御機構解明は、多くのミトコンドリア病の発症機構の解明とその創薬支援のためにも非常に重要なテーマとなってきている。しかし、ミトコンドリア融合・分裂に関わるタンパク質群の発現は連動しているため、培養細胞を用いたタンパク質の過剰発現系やノックダウン法による解析では、その制御因子探索やメカニズム解明は非常に困難であるのが現状である。本申請研究では、ラット視交叉上核腹外側部由来の神経細胞株・N14.5の分化過程や神経変性疾患におけるミトコンドリアの形態変化を、当研究室が独自に開発してきた「セミインタクト細胞リシール法」を駆使して分析的に可視化再構成し、「神経細胞分化過程や病態環境下での」ミトコンドリア形態制御機構解析のツール構築とそれを用いた形態制御機構の解明を目指す。平成24年度は、前年に樹立したミトコンドリアのGFP可視化可能なラット視交叉上核腹外側部由来の神経細胞株・N14.5の未分化細胞(増殖型繊維芽状細胞)を用い、セミインタクト細胞リシール法を用いて温度依存的に神経分化させたN14.5 細胞内のミトコンドリア形態解析を行い、神経分化過程におけるミトコンドリア形態の断片化とその後の伸長化を発見した。また、神経分化に必須とされるキナーゼGSK3βの活性変化が、神経細胞のミトコンドリアの形態変化を制御することを発見した。質量分析法や生化学的手法を用い、GSK3βが直接か間接的かは不明であるが、ミトコンドリアの断片化を誘起することが知られているタンパク質であるDrp1のSer585のリン酸化を誘起していることを明らかにした。これらの結果は、神経分化時におけるミトコンドリアの形態制御にGSK3βが関与していることを強く示唆した。
3: やや遅れている
本申請研究の平成23年度は、ミトコンドリア形態をGFP可視化できるラット視交叉上核腹外側部由来の神経細胞株・N14.5の未分化細胞(増殖型繊維芽状細胞)を樹立し、L5178Y細胞の細胞質を導入したN14.5未分化細胞のセミインタクト細胞作成条件とそのリシール細胞作成条件を検討し、再現性良くリシール細胞を作成する条件を決定した。また、そのリシール細胞を33℃→39℃に温度シフトすることで神経細胞に分化させることにも成功した。しかし、そのリシール効率が30~40%と低かったことより,神経分化に成功しその後のアッセイに耐えうるリシール細胞の効率はさらに低鋳物であった。平成24年度は、そのリシール効率の向上を目指し,様々な条件改善により60%以上のリシール効率を達成し、それを用いて神経分化に伴うミトコンドリア形態の定量的解析実験が十分可能となった。また、平成23年までに、神経分化に伴うGSK3βの活性化が、分化誘導時のミトコンドリア形態変化(特に、断片化)を誘起することを強く示唆する結果を得たため、平成24年度は、GSK3βの活性化によりDrp1の265番目のSer残基のリン酸化が生起していることを,生化学的にまた質量分析を用いたリン酸化ペプチドの解析により明らかにした。この265番目のSerのリン酸化は,培養細胞のM期におけるミトコンドリアの断片化に関わると言う報告がもあルが、われわれの研究結果ではHeLa細胞においてGSK3βの活性低下によるミトコンドリアの伸長現象にも関わるという予備的結果がある。これらを明らかにするため、今後(平成25年度)は、神経分化時のGSK3βの活性変動とこのリン酸化との関係を明らかにする。また、このリシール神経細胞を用いた、神経変性疾患とミトコンドリア形態の関係を明らかにする研究を進める。
平成23年度に樹立した細胞株(N14.5-Tom5)をセミインタクト細胞にし、そこに、分化誘導前の細胞質「未分化細胞質」からGSK3βを免疫除去した細胞質やDrp1のSer585をAlaに置換したdominant negative体を添加した細胞質を用いて、未分化細胞のリシール細胞内で起こるミトコンドリア形態を解析することによってGSK3βやリン酸化Drp1の機能を検証する。分化誘導(33℃→39℃)後1,2,3,4日目の細胞から調製した「分化細胞質(1d~4d)」に同様な操作を加えた細胞質を、分化した神経細胞のリシール細胞に導入することによってGSK3βやリン酸化Drp1の機能を検証する。その結果をもとに、分化誘導によるN14.5神経分化依存的なミトコンドリア形態変化のGSK3βやリン酸化Drp1による制御ネットワークを明らかにする。同時に他の因子の探索も行う。上記で構築した神経細胞のミトコンドリア形態解析系を利用して、神経変性疾患のミトコンドリア形態変化の原因因子の探索と解析を行う。ターゲット病態としては、多様な病態モデルマウスが入手可能なアルツハイマー病に絞り、アルツハイマー病モデルマウス(ApoE(-/-)マウス)脳から調製した病態細胞質をセミインタクトN14.5-Tom5細胞内に導入し、リシールして「病態モデル細胞」を作成する。同時に、コントロールとなるwild type のマウスの脳から調製した正常細胞質を導入した「正常モデル細胞」も作成する。その後、両モデル細胞内のミトコンドリア形態を解析すると同時に、特に、GSK3βやリン酸化Drp1の機能低下・活性化と病態発現との関係を解析し、病態特有のミトコンドリア機能の低下を検定する。
平成23~24年度の研究成果により、本課題研究推進の基盤技術(ミトコンドリア形態解析用細胞株の樹立、リシール細胞の作成条件決定とそれを用いたミトコンドリア形態解析システム)とそのシステムを用いて検定すべき因子(Drp1とそのリン酸化を制御するキナーゼ)など材料を得ることができた。平成25年度は、未分化神経細胞および分化神経細胞を大量培養し、それから調製した未分化・分化細胞質とリシール細胞技術を駆使して、ミトコンドリアの形態変化に関わることを同定したGSK3βやリン酸化Drp1の機能を検証する。研究推進のためには、セミインタクトリシール細胞とリコンビナントタンパク質、免疫除去用の抗体等が必要であり、セミインタクトリシール細胞アッセイに必要な大量の細胞質調製用の細胞培養関連試薬と血清等の消耗品費、モデルマウス購入に関わる消耗品費、多様で大量のリコンビナントタンパク質調製・精製用の生化学的試薬などの消耗品費、また、リシール細胞内のミトコンドリア形態変化や機能変化(特に、ミトコンドリア依存的なアポ-トーシス誘導活性やATP産生能等)の解析に使用する生化学的キットや試薬類の消耗品費、等を中心に計上した。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
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