Patchedは、細胞の増殖と分化をコントロールする12回膜貫通型のヘッジホッグレセプターである。その機能不全はヒト癌原性を誘導することが知られていたが、細胞膜上でのリガンド受容情報が機能発現の場である核内にどのように伝達されるかについては充分な理解はされていなかった。我々は最近、Patched のC末端第7細胞質ドメインが特異的プロセシングを受け、生じた断片が核内に移行し癌原性転写因子を不活性化していること、断片の代謝調節系により発癌誘導がコントロールされうることを世界で初めて明らかにした。本研究では、Patched第7細胞質ドメインの(1)プロセシング機構、(2)核移行と転写調節作用、(3)発癌性の鍵を握る代謝的安定性の制御機構、の3点に注目した解明を進め、ヘッジホッグ経路を介した細胞機能制御の新しいパラダイムを確立することを最終目的に解析を進めている。2年目にあたる2012年度においては、これまで我々が蓄積した知見や技術的ノウハウ、さらに各種レコンビナン蛋白質、一連の変異体遺伝子・抗体などの研究資産を用いて、Patched1の細胞質ドメインの構造と機能の解析を進めた。その結果、Patched第7細胞質ドメインの切断を一部阻害する化学物質の同定に成功した。さらに、Patched第7細胞質ドメインの翻訳後修飾の実体を明らかにしつつある。また、Patched1の細胞質ドメインに対する新規結合タンパク質(複数)の同定などに成功した。さらに、Patched第7細胞質ドメインをドキシサイクリン存在下で、適切な量を発現させる事により、Patched第7細胞質ドメインの核局在を人工誘導すること、それにより下流の転写因子の局在と転写活性を制御する全く新しい制御システムを新しく見いだした。これらの成果は、Patched1の細胞質ドメインを介した第7細胞質フラグメントの生理的意義解明の一歩となる。
|