研究課題/領域番号 |
23657136
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
吉田 秀郎 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (60378528)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ゴルジ体 / ストレス応答 / 転写制御 / 細胞小器官 / 小胞体 / 糖鎖 / 小胞輸送 / 膜脂質 |
研究概要 |
細胞には細胞の機能を分担する様々な細胞小器官が存在するが、その存在量は細胞の需要に応じて厳密に制御されている。このような細胞小器官の量的調節機構の研究は細胞生物学の根幹に関わる研究課題である。本研究課題では、ゴルジ体の量的調節機構であるゴルジ体ストレス応答の分子機構を解明することが最終目標である。これまでの研究から、ゴルジ体ストレス応答の応答経路として、TFE3経路を明らかにした。今年度は、(1) TFE3経路以外にもゴルジ体ストレス応答の経路が存在するのか、 (2) TFE3経路を活性化するゴルジ体ストレスの分子的実体は何かを追究するために、様々な人為的な方法によってゴルジ体ストレス(ゴルジ体の機能が不足する状態)を起こしてTFE3経路が活性化されるかどうか調べた。人為的なゴルジ体ストレスを起こす方法としては、xylosideのようなプロテオグリカンの糖鎖付加阻害剤や、BenzylGalNAcのようなムチン型糖鎖修飾阻害剤、swainsonineのようなゴルジ体でのマンノース除去反応の阻害剤、wortmanninやPIK-93、LY294002、YM201636などのゴルジ体以降の小胞輸送阻害剤、ceramideやsphingosineのようなゴルジ体の膜構成を撹乱しゴルジ体の機能不全を引き起こす薬剤、ゴルジ体の形態変化を起こすtyrphostin A9、ゴルジ体の構造維持に必要なタンパク質GCP60を過剰発現してゴルジ体の機能を低下させるなどの方法を行った。 実験の結果、驚くべきことにいずれの方法によってもTFE3経路が活性化されることがわかった。このことは、TFE3経路がゴルジ体ストレス応答の主要な経路であることを示唆している。また、糖鎖修飾が未完成な分泌タンパク質の蓄積や、ゴルジ体に分泌タンパク質が蓄積することがゴルジ体ストレスの実体であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な種類のゴルジ体ストレスを細胞に負荷することによって、新規のゴルジ体ストレス応答経路の存在は確認できなかったが、TFE3経路の重要性を明らかにできた。また、TFE3経路を活性化するゴルジ体ストレスの分子的実体が、ゴルジ体での糖鎖修飾とゴルジ体以降の小胞輸送を密接に関連しているという重要な知見を得ることができた。これらの知見は、ゴルジ体ストレス応答の全貌解明の重要な手がかりとなる。
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今後の研究の推進方策 |
様々な人為的ゴルジ体ストレスによって転写が誘導される遺伝子群と、転写因子TFE3を過剰発現することによって発現が誘導される遺伝子群を次世代DNAシークエンサーを用いて同定し、両者を比較することによってTFE3経路以外のゴルジ体ストレス応答経路の存在を検討する。また、ゴルジ体ストレス時に分泌タンパク質の糖鎖にどのような変化が生じているか、糖鎖の質量分析を行って解明する。更に、TFE3のリン酸化酵素や脱リン酸化酵素を同定し、その活性調節機構を解析することによって、最終的にゴルジ体ストレスを感知するセンサー分子の同定を行い、ゴルジ体ストレスからTFE3の活性化に至る細胞内情報伝達経路の全貌を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
主として、上記の次世代シークエンサーや糖鎖の質量分析の消耗品代に使用する。また、細胞の培養や蛍光抗体染色、ウエスタンブロットのような生化学的解析、遺伝子組換えプラスミドの構築のような分子生物学的のための試薬の購入に使用する。
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