研究課題
本研究は、たんぱく質が正しく翻訳後修飾を受けるために必要なメカニズムとして、そのたんぱく質のmRNAの局在が重要な役割を果たしているのではないかという仮説を検証することを目的としている。 そのために、翻訳後修飾としてGlycophosphoinositol (GPI)アンカーに着目し、GPIアンカーを受けるたんぱく質、dally-like protein (dlp)のmRNAの局在を変化させたとき、その翻訳産物が正常な機能を有するかどうか、検討を行った。 私たちはDlpのmRNAは、ショウジョウバエ幼虫羽原基の細胞において核近傍に局在していることを見出した。そこでまずdlp mRNAの局在を変化させるために、3’-non coding regionを改変し、その遺伝子をもつトランスジェニックショウジョウバエを作成した。それらの遺伝子から転写されたmRNAの局在を調べたところ、本来の核膜近傍とは異なって、細胞のアピカル側、ベーサル側に変化させることに成功した。 次に、局在を変化させたmRNAから翻訳されたDlpたんぱく質が正常な機能を有しているかどうか、検討を行った。正常な局在を示すmRNAから翻訳されるDlpたんぱく質を強制発現させると、ショウジョウバエの発生が異常になることが知られている。しかしmRNAの局在を変化させたDlpたんぱく質の強制発現では、正常なDlpと比較するとその異常の程度が弱いことが明らかになった。このことは、細胞内で正しく局在していないmRNAから翻訳されたたんぱく質は、本来の機能を持たないことを示唆しており、mRNAの局在がその翻訳産物の機能発現に重要な役割を果たしていることを示す予備的な結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、mRNAの局在がたんぱく質の翻訳後修飾を制御して、正しいタンパク質の機能発現に必要であることを示すことにある。そのうち現在までに予備的ではあるが、mRNAの局在が正しいたんぱく質の機能発現に必要であることを明らかにすることができた。
異常な局在を示すmRNAから翻訳されたDlpたんぱく質が正常な機能を示さないことを、強制発現系だけではなく、dlp変異体のrescue実験で確認する。 そして局在異常mRNAから翻訳されたたんぱく質が正常な機能を示さない原因を明らかにする。具体的には発現量や局在の変化、そして翻訳後修飾(GPIアンカー修飾、プロテオグリカン糖鎖修飾)の異常が生じているかどうか、検討を行う。 翻訳後修飾の異常が認められれば、dlpの3’非翻訳領域内に存在する翻訳後修飾に必要な配列を決定し、そこに結合するたんぱく質の同定を行う。そしてどのようにしてmRNAの段階で翻訳後修飾が制御されているのか、メカニズムを明らかにする。 そのメカニズムに鑑みて、dlp mRNAが核膜近傍に局在する生理学的意義にせまる。上で同定した翻訳後修飾に必要なmRNA配列に結合するたんぱく質が、核膜近傍にのみ局在する、あるいは、翻訳後修飾に関わる酵素そのものが核膜近傍の小胞体に存在するなど、が考えられるので、これらの可能性について検討を行う。
dlp変異体を用いての実験、dlpの3’非翻訳領域内に存在する翻訳後修飾に必要な配列を決定するために、ショウジョウバエの系統購入、維持、トランスジェニックハエを作成するための費用が必要である。 Dlpたんぱく質の翻訳後修飾を調べたり、mRNAに結合するたんぱく質を同定するために、精製や解析のための生化学実験用の消耗品費用が必要である。また特にGPIアンカー修飾の有無については培養細胞を用いての実験も行う予定で、細胞培養に必要な培地、試薬の購入を行う。 翻訳後修飾に関わる酵素の局在を検討するため、また新たに同定したmRNAに結合するたんぱく質の局在を検討するために、抗体の作成または購入をはじめ、細胞生物学用の消耗品を購入する予定である。 成果を発表するために、論文校正費用、掲載料、学会発表のための旅費、参加費が必要である。
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