研究概要 |
シアノバクテリアの概日振動システムに関し、2009年にプレリミナリーなデータを発表したkai遺伝子破壊株における一部の遺伝子群(kai-less oscillating [klo]遺伝子群)の不安定な転写振動(Ito et al., PNAS)について解析を進めた。 分子遺伝学的解析から、これらの遺伝子発現に大きく影響を与える複数の遺伝子座を同定した。そのいくつかは転写に強い影響を及ぼすことが期待される蛋白質群をコードしていた。 興味深いことにklo遺伝子群の発現は、野生株では比較的低レベルかつ転写振動も低振幅であるが、kai遺伝子破壊株においては、培養条件依存的に若干短周期の転写振動を示す。これに対して、今回見出した複数の遺伝子座の多重変異体では、顕著にklo遺伝子群の発現が活性化され、また転写振動も回復していた。この変異体では、ゲノムワイドなkai依存性の転写振動の多くにも少なからぬ影響が見られた。これらのことから、「kai遺伝子群はこれらの制御遺伝子の機能の一部を培養条件依存的に抑制し、通常はklo遺伝子群の発現を抑制しているが、kai遺伝子群が欠損した場合には発現抑制が解除され、klo遺伝子群の転写誘導が起こる」という可能性が示唆された。 また、本研究課題に強く関連する解析として、kai遺伝子群の転写翻訳リズムに大きな影響をもたらす、新たな二成分制御系レスポンスレギュレーター、RpaB蛋白質を同定した(千葉大・華岡准教授らとの共同研究)。既に当グループが見出していたkai遺伝子発現の正の制御因子RpaAは、単独ではkai遺伝子のプロモーターに結合できず、RpaB蛋白質とおそらくヘテロダイマーを形成することで協調的にkaiBCオペロンやrpoD6などの高振幅遺伝子群の発現を調整していることを明らかにした。
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