研究課題/領域番号 |
23657141
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
越田 澄人 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40342638)
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キーワード | 細胞・組織 / 発生・分化 / シグナル伝達 |
研究概要 |
腎臓は脊椎動物の恒常性維持のために必須な器官であり、その発生制御機構を理解することは極めて重要である。魚類の前腎をモデル系として、多くの機能を発揮する尿細管上皮細胞の腎発生過程での増殖や形態変化、極性獲得などを詳細に観察し、それらの現象を制御するメカニズムを明らかにすることを目的としている。腎発生に異常をもつメダカ突然変異体ktuの発生過程の尿細管上皮細胞を可視化するために、この細胞で発現するFoxA2のプロモーターによってEGFPを発現するトランスジェニック系統を用いた。ktu変異体の受精後3日から7日の胚をライブで詳細に観察した。その結果、ktu 変異体の前腎形成において前腎前端部の屈曲のタイミングや度合いには野生型と比べて大きな差は無かった。次に、ktu 変異体における前腎管径の変化についてライブイメージングをおこなった。その結果、受精後3日胚では管腔サイズは野生型と大きな差は無かったのに対し、受精後5日胚になると前腎前端において管径が野生型の3倍程度に拡大することが明らかとなった。更に、受精後7日胚になると管径拡張領域はより後方まで拡大し、前腎管全体に管径拡張が広がっていた。また、ktu変異体の前腎管構成細胞の形状をライブで観察したところ、ステージ36から細胞の扁平化がみられた。このことより、ktu変異体における細胞の扁平化は管径の拡張が起こる時期よりも遅いステージにならないと起こらないことが明らかになった。尿細管を構成する細胞が原尿の流れという機械刺激に対して応答するためのシグナル伝達機構の解明が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
軸糸ダイニンに対する抗体作成を行い、ゼブラフィッシュなどの小型魚類の腎臓におけるタンパク質局在を野生型とkintoun (ktu) ノックダウン個体で解析し、その結果を基に機械刺激受容細胞の同定を行い、受容体の繊毛局在とktuとの相互作用を検討する予定であったが、タンパク質局在解析の結果、軸糸ダイニンの局在が複数のktu関連分子によって制御されるという新しい発見があった。このため計画を変更してktu関連分子の発現パターン解析と軸糸ダイニン局在制御機構の解析を行うことにしたため。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトの多発性嚢胞腎(PKD)の主要な原因遺伝子であるPC1とPC2(Caチャネル)の複合体は、哺乳類では尿細管上皮細胞の感覚繊毛に局在しており、この運動性を持たない繊毛上でのPC1/PC2複合体による正常な流れのセンシングが、細胞の増殖や形態を制御していると考えられている。一方で、ゼブラフィッシュのPC2ノックダウンによる機能阻害胚では、左右軸形成異常とPKD発症が起こることから、魚類においてもPC2が機械刺激受容に関与していると考えられている。しかし、我々は左右軸形成に重要な機関であるクッペル胞上皮細胞を詳細に観察し、運動性をもった繊毛上にメカノセンサー複合体構成分子が局在していることを見出した。したがって、魚類においては運動性繊毛が機械刺激受容を行っていることが考えられる。 そこで我々は、魚類の腎臓における運動性繊毛の構築と機械刺激受容分子の局在のメカニズムを明らかにするために、運動性繊毛の運動性が失われたメダカ突然変異体kintoun (ktu) における機械刺激受容分子の局在について検討し、変異体原因遺伝子産物と機械刺激受容体との相互作用についての情報を得ていく。また、発生過程で機械刺激を受容している細胞を同定するために、細胞内カルシウム濃度の変化をカルシウム指示薬を用いて可視化し、共焦点レーザー顕微鏡によるライブイメージングの条件検討を行っていく。野生型と変異体での尿細管上皮細胞でのシグナルの動態を比較することで、発生中の様々な時期および部位での機械刺激受容の重要性が明らかになっていくことが期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題では小型魚類を飼育・繁殖し、研究を行っていく。従来の小型魚類飼育システムでは、水質の変化によって実験材料の供給が安定しない場合があることを踏まえて、比較的小規模の飼育水槽システムを新たに構築し、材料が安定に供給されるように改善する。また、解析に共焦点レーザー顕微鏡などの先端技術を用いた研究設備が必要となる際は、東京大学理学研究科研究のものを使用するので、次年度の主たる研究経費は研究用試薬などに掛かる消耗品費となる。 研究用試薬としては、抗体作製・分子生物学実験・タンパク質間相互作用検出実験・アンチセンスモルフォリノオリゴを用いた小型魚類個体における機能阻害実験などを行うのに必要なものなどがあげられる。
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