脊椎動物の腎臓は、恒常性維持にかかわる重要な器官であり、その多くの機能は尿細管を構成する上皮細胞が担っている。ヒトやマウスにみられる多発性嚢胞腎(PKD)は遺伝性疾患であり、尿細管や集合管の上皮細胞の増殖や扁平化によって生じることが報告されている。PKDの主要原因遺伝子のひとつであるPC2をゼブラフィッシュでノックダウン(KD)するとPKDを発症することから、魚類と哺乳類にはPKD発症に関して同様のメカニズムが存在すると考えられる。我々は、PKDを発症するメダカ突然変異体kintoun(ktu)を用いた実験発生学的解析を行い、魚類の尿細管上皮細胞に生えている繊毛の運動性が細胞自律的に嚢胞形成に関与する可能性を明らかにしてきた。この結果から、正常なKtuタンパク質が、管腔内の原尿の流れ刺激を受容するのに重要な役割を果たしていることが推測された。そこで、Yeast two-hybrid screening によって明らかになったKtuタンパク質と相互作用する分子のうち、刺激を受容する膜ドメインの構築に関与する可能性をもつ2つの候補遺伝子について、ゼブラフィッシュを用いて検討を行った。ゼブラフィッシュにおいて、モルフォリノオリゴを用いたktuのKDでは、心臓の位置が左右ランダムになる異常と尿細管の拡張が観察された。これらの異常はいずれもこれまでに報告されている運動性繊毛に異常をもった場合に観察される表現型と一致している。次に2つの候補遺伝子についてKDを行ったところ、いずれの場合も左右性の異常がみられた。さらに、腎臓の表現型についても検討したところ、1つの候補遺伝子の機能阻害で、受精後3日胚の尿細管が拡張していることが明らかになった。今後、この候補遺伝子の尿細管上皮細胞での機能を詳細に調べることで運動性繊毛と機械刺激受容の関係について理解が深まることが期待される。
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