膜結合型抗体を細胞膜や核内膜に特異的に発現させることで、生体膜という「場」における分子間相互作用の役割を解析するためのツールの開発を目指した。(1)抗体cDNAのクローニングと膜結合型抗体の作成。抗HAと抗Myc抗体のcDNAをハイブリドーマからクローニングした。次いで膜結合型抗体のコンストラクトを作成し、細胞膜の外側に向けて抗HA膜結合型抗体を発現させたところ、HAタグ付き分泌性蛋白質を捕捉することが示された。これにより分泌蛋白質の拡散性を調べることが可能となった。(2)一本鎖抗体(scFv)の作成。抗体の構造を簡略化し、分子間のS-S結合を省略することで発現を容易にする目的で、scFvを作成した。まず細胞外に分泌させて、抗体として機能するかを検討した結果、免疫沈降法で抗体活性が確認された。(3)力学的な相互作用の解析。細胞間の力学的な相互作用の解析のため、張力の大きさによってFRET効率が変化する張力センサーモジュール(TSMod)に、Mycタグと膜貫通ドメイン(TM)を融合させたMyc-TSMod-TMを構築した。それを隣接する細胞の一方に発現させ、他方に抗Myc抗体-TMを発現させることで、抗原抗体反応で細胞間に架橋させることを目論んだ。しかし期待したほどFRET効率の劇的な変化は認められず、今後はより厳密な測定方法の開発が必要と考えられる。(4)細胞間架橋による発生への影響。上記(3)の解析過程で、細胞間の架橋により発生異常が引き起こされることに気が付いた。この結果は、細胞間の滑りを制御することが原理的に可能となったことを示しており、今後それを用いることで、発生における細胞運動と力学的な滑りの強さとの関連性を検討することが可能となった。
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