研究課題/領域番号 |
23657150
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松田 七美 早稲田大学, 先端科学健康医療融合研究機構, 講師 (70360641)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | エネルギー代謝 / メタボローム / 可視化 / 細胞競合 / 細胞間相互作用 |
研究概要 |
本研究では、多細胞生物の発生、再生、発がんなどの過程に関わる普遍的な生命現象として注目される新しい概念である、細胞競合に着目する。細胞競合とは、器官において、増殖が速く生存能の高い細胞群(勝ち組)が、増殖が遅く細胞死によって排除される細胞群(負け組)に競合し、細胞の増殖、細胞死、周期、分化などが統合的に制御されることにより、一定の大きさと機能をもつ器官・組織が形成される現象である。これまでに細胞競合関連因子として、癌遺伝子c-MycのショウジョウバエホモログdMycが報告されているが、その分子機構は不明である(Johnston, Science 324, 2009)。 申請者らは、ショウジョウバエの翅原基、及び培養細胞株を用いて、dMycにより制御される細胞競合のin vivo、及びin vitroモデルを確立した(de la Cova et al., Cell 117, 2004; 松田 & Johnston, Proc Natl Acad Sci USA 104, 2007)。これらのモデルを用いた予備的解析から、勝ち組、あるいは負け組となるそれぞれの細胞群の運命決定に、エネルギー代謝変化が関わることを見いだした。 そこで本研究課題では、上記の細胞競合モデルにおいて、メタボローム解析、及びATP可視化プローブ(ATeam)を用いたライブイメージング解析を行い、エネルギー代謝ステータスを網羅的定量化・可視化することより、細胞競合が生じる際の勝ち組細胞(生細胞)-負け組細胞(死にゆく細胞‘死細胞’)間の運命決定に関わる相互作用と代謝調節機構の詳細を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交付申請書の研究目的(1)「メタボローム解析による競合する勝ち組、及び負け組細胞における代謝ステータスの網羅的定量化」に関しては、概ね順調に研究が進展している。これまでに、細胞競合のin vitroモデル(間接共培養系モデル)において、勝ち組、あるいは負け組となる細胞として、高dMyc細胞、及び低dMyc細胞において、小規模スケールでメタボローム解析を行い、エネルギー代謝変化と細胞特性決定機構との関係を明らかにするための解析系を構築し、予備的な解析結果を得た。そこで、この解析系を用いて、競合する勝ち組、及び負け組細胞、及び非競合条件下における様々なコントロール細胞において、スケールアップしたメタボローム解析による細胞内の代謝中間体動態の網羅的解析を進めている。 一方、交付申請書の研究目的(2)「ATP動態ライブイメージングによる競合する勝ち組、及び負け組細胞における代謝ステータスの可視化」に関しては、当初の計画と比較してやや遅れている。申請者は、連携研究者の京都大学・今村博臣博士との共同研究により、ショウジョウバエなど、体温が室温付近にあるモデル生物におけるATP動態解析のための低温作動性プローブの開発を進めてきた。しかしながら、開発途中で有力な候補プローブであったATeam24の低温作動性に問題があることが判明した。そこで、目的の低温作動性として室温付近で適切なアフィニティーを持つ変異体(改良型ATeam)のスクリーニングに立ち戻り、AT1.03NLを選択し、予備検討を行うこととなった。このような問題が発生したため、平成23年度は、連携研究者の今村との研究打合せを頻繁に行った。 研究プロジェクト(1)に関してはおおむね順調に進展しており、研究プロジェクト(1)に関してはやや遅れているという評価から、全体の評価として、<区分>3を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
研究プロジェクト(1)「メタボローム解析による競合する勝ち組、及び負け組細胞における代謝ステータスの網羅的定量化」に関しては、平成23年度に確立した解析系を用いて、平成24年度にメタボローム解析による細胞内の代謝中間体動態の網羅的解析を進める。 研究プロジェクト(2)「ATP動態ライブイメージングによる競合する勝ち組、及び負け組細胞における代謝ステータスの可視化」に関しては、平成23年度に11.の項で述べた問題が生じたものの、候補プローブのスクリーニングに立ち戻り、低温作動性が確認された改良型ATeamとしてAT1.03NLを選択し、予備検討を行っている。平成24年度は、ひきつづき連携研究者の今村と協力し、AT1.03NLを用いたショウジョウバエモデルのための改良型ATeamの開発に挑戦的に取り組み、代謝ステータスの可視化解析系を確立する。 平成23年度は、研究プロジェクト(1)、及び(2)における予備検討にかかる消耗品費を間接経費より計上した。また、研究プロジェクト(2)で生じた問題を解決するために、連携研究者との研究打合せを行い、その国内旅費を直接経費より計上した。これらの収支状況により、次年度に使用する予定の研究費が生じることとなった。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度(平成24年度)は、研究プロジェクト(1)「メタボローム解析による競合する勝ち組、及び負け組細胞における代謝ステータスの網羅的定量化」に関して、大規模なサンプル調製とメタボローム解析を進める。 また、次年度(平成24年度)、研究プロジェクト(2)「ATP動態ライブイメージングによる競合する勝ち組、及び負け組細胞における代謝ステータスの可視化」に関しては、低温作動性が確認された改良型ATeam(AT1.03NL)を用いた以下のショウジョウバエモデルの開発を進める。(i) ATeamトランスジェニックハエを用いてMARCM解析を行い、ATeamをユビキタスに発現するショウジョウバエ幼虫の翅原基において、競合する高dMyc細胞群と低dMyc細胞群を作製し、それぞれの細胞群におけるATP動態をライブイメージングできるin vivo解析系を構築する。(ii)また、ATeam/S2細胞、及びATeam,高dMyc/S2細胞を用いた共培養系を応用し、細胞競合モデルを構築し、競合する高dMyc細胞群と低dMyc細胞群それぞれにおいてATP動態をライブイメージングできるin vitro解析系を構築する。 上記のように、研究計画(1)、及び(2)を遂行するため、平成23年度に繰越した次年度使用予定の研究費が平成24年度に請求する研究費に加算される必要がある。なお、繰越される次年度使用予定の研究費は、主として消耗品費として計上する予定である。
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