研究概要 |
細胞競合とは、多細胞生物の器官において、増殖が速く生存能の高い細胞群(勝ち組)が、増殖が遅く細胞死によって排除される細胞群(負け組)に競合し、細胞の増殖、細胞死、周期、分化などが統合的に制御されることにより、一定の大きさと機能をもつ器官・組織が形成される現象である。申請者は、ショウジョウバエの翅原基、及び培養細胞株を用いて独自のin vivo、及びin vitroモデルを確立し、がん遺伝子c-MycのショウジョウバエホモログdMycにより細胞競合が制御されることを明らかにした(de la Cova et al., Cell 117, 2004 ; 松田, Proc Natl Acad SciUSA 104, 2007)。これらのモデルを用いた予備的解析から、勝ち組、あるいは負け組となるそれぞれの細胞群の運命決定に、エネルギー代謝変化が関わることを見いだした。 そこで本研究課題では、細胞競合が生じる際の勝ち組細胞(生細胞)-負け組細胞(死にゆく細胞'死細胞')間の運命決定に関わる相互作用と代謝調節機構の詳細を明らかにすることを目的として、上記の細胞競合モデルにおいて、トランスクリプトーム解析、及びメタボローム解析の手法を用いて、エネルギー代謝ステータスを網羅的定量化することより解析を行った。 その結果、dMyc により制御される細胞競合モデルにおいて、勝ち組、あるいは負け組となる細胞群の運命決定に、dMycとp53が協調的に制御するエネルギー代謝が関わることを見いだした。興味深いことに、p53を機能欠失させると、勝ち組と負け組の代謝ステータスが逆転し、それぞれの細胞運命が逆転する。このような競合条件下で勝ち組、あるいは負け組となる細胞が相互作用し互いを認識し、細胞非自立的に細胞特性を変化させる仕組みに、好気的な糖代謝の亢進が関わることを明らかにした。 現在、さらに競合するそれぞれの細胞におけるエネルギー代謝ステータスを可視化する目的で、負け組細胞(死にゆく細胞'死細胞')の構築を進めている。
|