研究課題
終脳新皮質の「層構造」は、全てのほ乳類に認められながらも、ほ乳類以外の相同領域には存在しない新奇な構造である。性質の似た神経細胞が整然と一列に並んだこの独特な構造が、どのようにして進化してきたのかは、研究者のみならず多くの人が興味惹かれる壮大な謎である。発生時、哺乳類新皮質の神経幹細胞は、非対称に分裂を繰り返しながら、下層から上層へと個性の違う神経細胞を順次生み出す。この誕生日依存的に層個性を生みだす発生プログラムが、層構造獲得の鍵であったと一般的に信じられている。本研究では、哺乳類新皮質の上層と下層に存在する神経細胞のサブタイプが、ニワトリの脳にも存在することを明らかにした。これらの細胞は,ニワトリ脳においては、層状ではなく離れた場所に塊をつくって分布していた。その理由は、空間的に離れた位置にある神経幹細胞が、上層と下層の神経細胞を生み分けるからである。これは,哺乳類の神経幹細胞が、上層と下層の両方のタイプの神経細胞を時間差で生み出すのとは大きな違いである。しかし驚いた事に、いくらニワトリの神経幹細胞であっても、ひとたび脳から取り出して培養条件に置くと、哺乳類型の発生プログラムを発揮して、上層と下層の両方のタイプの神経細胞を時間差で生み出し始める事がわかった。これらの結果は、終脳に層構造を持たないニワトリであっても、潜在的には、哺乳類型の神経細胞のサブタイプやこれを生み出す発生プログラムを持っている事を示している。すなわち、本研究結果は、終脳新皮質の神経細胞を生みだす発生プログラムは、ほ乳類固有に進化してきた訳ではなく、大脳新皮質の層構造が進化する前から、おそらく祖先的な羊膜類において既に存在していた事を示唆している。
1: 当初の計画以上に進展している
我々の提唱する「新たな新皮質進化モデル」を論文発表の形で公表することができた。反響は予想以上に大きく、インターネットニュースに取り上げられたり、Fuculty of 1000にも推薦された。一般メディアからも問い合わせは多い。
ほ乳類とニワトリとの比較だけでは、どちらの脳に特殊化が起きたのかは判断できず、これらの共通祖先が持っていたはずの終脳を知る事はできない。そこで、カメ、トカゲ、カエル、真骨魚類など、他の脊椎動物を用いて、終脳新皮質相同領域における層個性マーカーの発現を調べ、発生過程を解析する。得られた成果を基に、脊椎動物共通祖先の終脳構造を推定して、終脳新皮質進化モデルを発展させる。
論文が年度を挟んで掲載されたため、本年度に見込んでいた出版社からの論文掲載料の請求が遅れ、一部支出が翌年度に繰り越しとなっている。それ以外は、当初の計画どおりに研究費を使用した。
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