生物は様々なリズムにより制御されていることが知られているが、未知なるリズムを探索する試みとして、脊椎動物胚において周期的な分節構造を形作る咽頭弓に着目し、その形成周期を制御する分子機構を解析した。研究代表者はこれまでにRipply3という新規転写調節因子が、咽頭弓の形成に相まって特徴的な発現変化を繰り返すことを見いだしている。そこで、Ripply3の時間的な発現変化を生み出す分子メカニズムを解明する目的で、Ripply3の転写開始点上流の配列にEGFPを繋げた融合遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作成した。このトランスジェニックマウスを用いてRipply3の発現解析を行った結果、本トランスジェニックマウスの作成に用いた転写開始点上流6kbの配列が咽頭弓におけるRipply3の発現には十分であることが明らかになった。培養細胞を用いたレポーターアッセイではこの上流6kbの配列からの転写がTbx1により活性化され、さらにそれがRipply3により抑制されることが示されており、Ripply3による負のフィードバックが自身の周期的な発現を生み出す可能性が示唆されている。そこでこのフィードバックが上流6kbの配列を介して行われているかを調べるため、このトランスジーンを有するRipply3変異体においてEGFPの発現を調べたところ、その発現期間が長くなり発現量も高まっていた。以上の結果は、Ripply3を介した負のフィードバックが咽頭弓におけるRipply3の発現に関わることを直接示すものであり、Tbx1とRipply3を介した負のフィードバックが咽頭弓における周期的な遺伝子振動を生み出すものと考えられた。さらに、TALEN法によりゼブラフィッシュのRipply3変異体の作成にも成功し、複数の脊椎動物において咽頭弓における遺伝子振動機構を解析する基盤が確立できた。
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