単細胞生物ゾウリムシが記憶能力を持ち有害細菌の感染を防御することを初めて発見した。核内共生細菌Holospora obtusaの感染型をゾウリムシと混合すると、ホロスポラはゾウリムシの細胞口から食胞を経由して10分後には標的核の大核に侵入(感染)する。ホロスポラが感染したゾウリムシは、混合後6時間で、同種の感染型ホロスポラを食胞に取り込まないように変化するが、熱等で感染能を失活させた感染型や感染能がない増殖型ホロスポラ、エサの細菌は正常に食胞に取り込んだ。これらは、ゾウリムシが感染を経験して短時間で危険を学習・記憶し、有害な細菌の感染防御を行う能力を生存戦略に使用していることを示している。ゾウリムシが持つこの感染防御機構は、特定細菌を短時間で記憶するプロセスとその細菌だけを選別して食胞内に取り込まないプロセスの2段階から構成されると予測され、既知の感染防御機構のどれとも異なる新たな感染防御機構である。 (1)拒否微生物として認識される物質の性質、(2)拒否反応発現に要する時間と記憶持続時間、(3)細胞咽頭で実施される細菌種の選別のムービー解析、(4)この現象が普遍的かを明らかにする実験を行った。その結果、(1)では、墨汁と別種の感染能力を持つH. undulataは正常に食胞に取り込まれた。H. obtusaの細胞外膜特異的抗体でマスクした感染型でも拒否反応が見られた。(2)では、最短、4時間で学習した。また、1年間記憶した。(3)ではゾウリムシをセルタックでガラスに接着させて圧力をかけずに観察したが食胞への選択的取り込みの現場を録画できなかった。(4)小核特異的H.undulataでもH. obtusa保持株と同じ現象が確認された。さらに、抗生物質でH. undulataを除去すると回復し、可逆的な現象であることが明らかになった。
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