真核生物の遺伝子の分子進化において、非コードエクソン1の生成・縮退は、その遺伝子のプロモーターの増減・改変に直接関わる。本研究は、脊索動物の進化過程において、非コードエクソン1の生成・縮退が形態形成進化に関わるかを調べることを大きな目的として、昨年度、精巣形成に関与する遺伝子Dmrt1の解析を行った。2年目の最終年度である本年度は、その解析を進め、以下の結果および考察が得られた。①非コードエクソン1の上流部とイントロン1内の計2つのプロモーターを有するアフリカツメガエルのDmrt1α遺伝子は、発現解析の結果、雌雄の生殖巣、あるいはZZ生殖巣の生殖細胞と体細胞で、2つのプロモーターの機能分化が起っている可能性が示唆された。②脊索動物の祖先から、1回目の全ゲノム重複後、種分化した無顎類のヤツメウナギ(脊椎動物の祖先種に近縁と考えられる)を用い、精巣で発現するDmrt1ホモログの単離を試みた。得られたcDNAは、構造解析から、Dmrt1のオルソログの可能性が考えられ、ゲノム情報との比較解析から、この遺伝子は、非コードエクソン1を有することが推察された。以上の結果、および、昨年度の哺乳類・鳥類のDmrt1の転写開始点の同定やデータベース解析から、Dmrt1オルソログに関し、以下のことが考察できた。脊椎動物の祖先で、非コードエクソン1が生成され、魚類や両生類種では、非コードエクソン1の上流とイントロン1内のプロモーター2つが遺伝子発現の機能分担に寄与する。興味深いことに、両生類以降の進化過程で、非コードエクソン1の縮退が起り、プロモーター機能が限定された可能性がある。本研究により、Dmrt1遺伝子の非コードエクソン1の生成・縮退と、DMRT1タンパク質の精巣形成や配偶子形成における機能分化・変化が、脊索動物の生殖巣形成システムの進化と密接に関わっている可能性が示唆された。
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