研究課題
リボスイッチはmRNAの非翻訳領域に存在する機能性のRNAで、特定の物質を認識するアプタマーが、その分子の結合によって立体構造を変化させることによってmRNAにコードされているタンパク質の合成を制御している。当該年度においては、特に、枯草菌に存在するグリシンリボスイッチをターゲットに研究を行った。このリボスイッチはタンデムに繋がったグリシンを結合するアプタマー部位の後ろにへリックス構造を有し、グリシンの結合の有無によってグリシンを分解するタンパク質の合成を制御している。しかし、グリシンとの結合でどのように立体構造が変化するのか、スイッチ機構はどのような仕組みで働いているかなど、メカニズムの重要な部分はよく分かっていない。そこで、T7プロモーターの直後に、グリシンリボスイッチ、および、eGFP遺伝子を配したプラスミドを構築し、これを鋳型としたRNAの転写量を観測すると共に、このグリシンリボスイッチの機能の核と推測されるヘリックス構造に焦点を絞り、その物性について、FRETやTm測定をもとにして評価を行った。その結果、このヘリックス部分が、外部添加物質によって、構造を柔軟に変化させるということが明らかになった。また、面白いことに、エチレングリコールやポリエチレングリコールの存在によって、本来のこのリボスイッチが持つグリシン依存性が失われることも明らかになった。エチレングリコールとポリエチレングリコールは、前者が転写を促進し、後者が転写を制御する方向に機能していることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の東日本大震災の影響でやや遅れていた研究の状況から回復の兆しが見られ、当該年度は、おおむね順調に進展していると言える。特に、昨年度、焦点を当てていたFusobacterium nucleatumのグリシン-リボスイッチ様配列から、枯草菌のグリシンリボスイッチにメインの対象を移すことによって、スイッチのON/OFFのメカニズムに関する仮説の構築とその実験的検証に取り組む手がかりが得られた。また、グリシンリボスイッチをアプタマー部分と発現プラットホーム部分に分け、発現プラットホーム中のヘリックス構造の形成と、発現のON/OFFについての関係を明らかにすることができた。昨年度、未曾有の大震災のために、研究が思うように進まず、研究費に関しても繰り越しを余儀なくされていたが、当該年度は繰り越した研究費を有効に実験に使用することができた。
当該年度に、in vitroで明らかになったヘリックス部分の役割が、in vivoでも同様な働きをしているのかを解明するために、eGFPの発現モニタリングを行う。当該年度も同様な試みを行ったが、in vivoでの有効な結果はまだ得られていない。この理由の1つとして、枯草菌のグリシンリボスイッチにも関わらず、プロモーターとして、T7ファージのもの利用したコンストラクトに問題がある可能性がある。プロモーターの変換によって、当該年度の結果を、in vivoにまで拡張した実験を行う。また、本来の目的である、グリシンの認識部位と認識形態の解明のために、Fusobacterium nucleatumのグリシン-リボスイッチ様配列の系を用いた解析を進める。更に、エチレングリコールとポリエチレングリコールが果たす役割について、生命と細胞の進化の観点からのアプローチも行っていく。
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BioSystems
巻: 109 ページ: 145-150
10.1016/j.biosystems.2012.03.003