研究課題
ヒメミカヅキモには、+型と-型の遺伝的に決定された性を持つヘテロタリック株(以下、ヘテロ株)と、1細胞由来の同一クローン同士で接合子をつくるホモタリック株(以下、ホモ株)が存在する。ホモ株では、一つの細胞が有性分裂を行うことで生じた、二つの姉妹配偶子嚢細胞同士で接合子を作りやすく、近縁なヘテロ株との交配でハイブリッド接合子を作ることから、有性分裂によって、姉妹にヘテロタリック株に相当する性分化が生じていると考えられた。今年度は、ヘテロ株、ホモ株、それぞれの生活環を網羅するtranscriptome解析を行うこととした。昨年度確立したホモ株(naga37s)について、栄養増殖期、接合誘起前期、接合誘起中期、接合誘起後期、発芽期の細胞を、それぞれ誘起時間を変えて回収し、これらからRNAを抽出した。また、ヘテロ株についても、栄養増殖期(+型、-型)、窒素源欠乏条件(+型、-型)、接合誘起期、発芽期など22条件から細胞を回収し、それぞれRNAを抽出した。現在、次世代シークエンサー(Illumina HiSeq2000)を用いたtranscriptome解析に供しており、データを待っている。さらに、ヘテロ株とホモ株との混合によりハイブリッド接合子が生じるが、このハイブリッド接合子からの子孫発芽について、接合子の成熟、乾燥処理条件などを検討した。タイムラプスビデオ解析などを多用し、緻密な観察を続けているが、接合子から接合子嚢として放出された後、予測されたように子孫細胞の形成が観られていない。
2: おおむね順調に進展している
RNA抽出には苦労したものの、目標とする量を得ることに成功している。現在までに解析結果が得られていないが、これは時間の問題である。また、ハイブリッド接合子からの発芽については、非常に困難であると当初から考えていたため、研究が遅れているとは判断していない。
引き続き、ハイブリッド接合子からの発芽を試み、生殖機構を決定づける原因遺伝子が、1つあるいは複数であるのかを、吟味する。また、Transcriptome解析により見いだされるであろう遺伝子群の内、性フェロモン遺伝子を中心に、特に性分化に影響を与えそうな遺伝子に着目して、恒常的に発現を誘導する内生プロモーターの下流に連結して、元のホモ株への遺伝子導入を行う。内生プロモーターとして、ヘテロ株では、HSP70遺伝子のプロモーターが有用であると判明しており、ホモ株にも適用する予定である。ホモ株が、ヘテロ株と同様の性を示すように変化した場合、ヘテロ株との掛け合わせを行い、生じた子孫の示す接合型との連鎖関係を検討する。
2012年度内では、Transcriptome解析により見いだされるであろう遺伝子群のrealtime PCRによる解析などに着手出来ていないため、予算を解析に必要な遺伝子工学的試薬の購入に充てる予定である。また、Transcriptome解析の信頼度を高めるため、再度ホモ株からのRNA単離も進める予定である。
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