これまでの研究成果により、ランカマキリの体色のピンク色は、還元型キサントマチン分子の自己凝集体によって生成されると予想された。しかし、キサントマチンの自己凝集体がランカマキリの生体内に存在することの直接的な証拠は得られていない。本年度の研究では昨年度に引き続き、生体内における色素状態の解析を行った。昨年度の光学顕微鏡を用いた観察により、ピンク色の体色を持つランカマキリのメス終齢幼虫の脚部においては、キサントマチン色素が大きいもので幅1-2マイクロメートル程度の大きさを持つ、やや不規則な形状の顆粒として存在することが確認された。この顆粒に対して透過型電子顕微鏡を用いた観察を行った結果、その内部には電子密度の高い、直径50ナノメートル程度の微小顆粒が数多く存在していることが確認された。一方、同様の構造物は白~薄黄色の体色を持つランカマキリのメス成虫では検出されなかった。以上の結果により、ピンク色のランカマキリにおいては色素顆粒内に特殊な細胞内構造が存在することが明らかになった。今後、後期幼虫とは異なる体色と色素組成を持つランカマキリ1齢幼虫、あるいは他種のカマキリとの比較解析を行うことにより、この特殊構造がピンクの体色と密接に関係していることを確認するとともに、色素の酸化還元状態を人為的に変化させたサンプルや試験管内で合成したキサントマチン分子の自己凝集体を観察することによって、これらの微小顆粒が色素の自己凝集体であるか否かを明らかにできると考えられる。
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