研究課題/領域番号 |
23657165
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古賀 章彦 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (80192574)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ヘテロクロマチン / 染色体 / 反復配列 / ヒト科 / テナガザル科 |
研究概要 |
本研究の直接の研究対象は、チンパンジーにあってヒトにない大規模ヘテロクロマチンである。目的は、ヒトでこれが消失した機構を解明することである。そのために、ヒトにわずかにみられる痕跡を分析の糸口とするべく、計画を立てていた。研究を開始して、この痕跡があまりに小さく、さらに塩基配列の保存の程度が現在予定している解析に耐えられるほどではないことが判明した。そこで2つの対策をとった。1つは解析法を改良することであり、もう1つは同様の例を近縁の他の生物種に求めることである。平成23年度末の時点で、前者は多少の進展がある程度であるが、後者は大きく発展している。 同様の例は、同じヒト上科に属するテナガザル科にみられる。シアマンに、チンパンジーのものと類似の形態の大規模ヘテロクロマチンがあり、シロテテナガザルにはこれがない。研究対象としての取扱いが可能となるように、シアマンのヘテロクロマチンの主成分を明らかにする実験を行った。まず、シアマンのゲノムから、コピー数の多い反復配列を多数、クローンとして得た。続いてそのうちから、シロテテナガザルではコピーが多くないものを選んだ。さらに染色体へのハイブリダイゼーションを行い、端部の大規模ヘテロクロマチンでシグナルを発することを確認した。塩基配列を解読した結果、アルファサテライトDNAであることが判明した。アルファサテライトDNAは、霊長類のセントロメアの主成分となっている反復配列であり、171 bp の単位が連続している。チンパンジーのヘテロクロマチンの主成分とは異なる反復配列である。チンパンジーとヒトに加え、シアマンとシロテテナガザルの組でも、染色体端部の大規模ヘテロクロマチンの起源や機能の解明の研究が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトにある痕跡がきわめて少量であり、しかも塩基配列の保存度が低いという困難な状況に、研究を開始してすぐに直面した。1つ目の対策としての解析法の改良は、多少の進展はあるものの、解決は次年度へ持ち越しとなる。もう1つの対策としての、テナガザル科2種からの同様の例の探索は、対策の策定当初の見込みを大幅に上回る速度で進展した。比較ゲノム解析と称せられる実験法に研究代表者独自の修正を考案して加え、これを適用したことが、大幅な進展の理由である。テナガザル科2種に関する結果は論文としてまとめ、11月に Heredity に審査に出し、審査意見に基づく改訂を経て、2月に受理された。 2つの対策の成果を合わせての評価は、「おおむね順調に進展している」に該当するといえる。
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今後の研究の推進方策 |
チンパンジーとヒトの組に先立ち、シアマンとシロテテナガザルの組で、大規模ヘテロクロマチンが増幅または消失した機構を解明する。このヘテロクロマチンのクローンをすでに得ているので、培養細胞を用いた仮説の検証が可能である。その結果を参考に、ヒトでの消失に関する仮説を絞り込んだうえで、検証に臨む。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の直接経費の繰越額は19円であり、研究計画の実施順序に変更が生じたものの、経費の使用に関しては研究開始時の計画のとおり推移しているといえる。 平成24年度は、予算の大部を消耗品に充てる。各種分子生物学実験を行う予定であり、そのための試薬が中心となる。消耗品に次ぐ規模の支出予定は、国際学会での成果発表のための旅費である。設備・備品は、50万円を超えるほどの高額のものを購入する予定はない。
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