microRNA (miRNA)をはじめとする小分子RNAは特定の遺伝子発現を抑制する技術として医療や研究など様々な場面で利用されている。一方、植物育種など農学分野での積極的な利用はその効果が不安定なため基礎・応用の両面において立ち後れている。効果が不安定な理由は今のところ不明である。従来miRNA遺伝子はRNA合成酵素pol IIにより転写されると信じられてきたが、申請者はイネの大部分 のmiRNAが植物に特有のRNA合成酵素pol Vに転写されることを見いだした。このことは、miRNA遺伝子の想定されていた転写機構が間違っていたことを意味する。本研究は植物miRNA遺伝子転写機構を明らかにし、安定的な人工miRNAの発現系を構築することを目的とする。これまでにイネのpolV遺伝子ノックダウン系統においてmiRNA遺伝子の転写が減少している事およびマイクロアレー解析により細胞周期関連遺伝子など、多数の遺伝子発現が変化している事を見いだしている。本年度は引き続きノックダウン系統の解析を行った。イネに6種ある植物特異的DNA依存的RNA合成酵素遺伝子のノックダウン系統において、miRNA遺伝子の転写量に影響がある系統とそうでない系統の間に、固形培地上でのカルスの細胞増殖速度に差があるように思われた。このことを明らかにするために、ハイグロマイシン抵抗性カルスを液体培養し、6種ある植物特異的DNA依存的RNA合成酵素遺伝子のノックダウン系統すべてについて増殖曲線を取得した。その結果、一部の系統について、実際に増殖が速くなっている傾向が得られた。この事は、ノックダウン系統において、細胞周期関連遺伝子の高発現を良く説明出来る。また、これらの系統ではハイグロマイシン抵抗性遺伝子も高発現している事から、高度のハイグロマイシン抵抗性により、選択培地における増殖促進につながったと結論づけた。
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