研究課題/領域番号 |
23658011
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
金 哲史 高知大学, 教育研究部総合科学系, 教授 (30234339)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 寄主選択 / 耐虫性 / イネ / ツマグロヨコバイ |
研究概要 |
GRH2遺伝子とGRH4遺伝子の両方を有する水稲はツマグロヨコバイに対して高度に抵抗性を示す。しかしながら、なぜこれらの遺伝子群を持つ水稲が抵抗性を示すのかは明らかとなっていないことから、本研究はこの抵抗性のメカニズムを全容解明するとともに、この遺伝子の機能を近似遺伝子系統(Near Isogenic Line)の水稲を用いて植物二次代謝産物の観点から明らかにすることを目的とした。1)抵抗性品種上で強制的に飼育すると、一週間以内に全ての虫が死亡する。2)抵抗性品種上で飼育している途中で感受性品種に餌替えをすると正常に生育する。3)抵抗性品種を摂食させた場合、排泄物中にアミノ酸や糖が検出されない。4)抵抗性品種のメタノール抽出物を与えると、摂食刺激としての糖を含ませてあるにもかかわらず、植物体上同様、一週間以内に全ての虫が死亡する。以上、これら種々の生物試験の結果から、ツマグロヨコバイ抵抗性因子は、摂食行動、特に篩管からの吸汁行動を阻害する摂食阻害物質であることを明確化した。この物質は、メタノール等の有機溶媒で抽出されるものの、逆相系のODSカラムに全く吸着せず、水で溶出される極めて極性の高い化合物である。更に、イオン交換樹脂を用いて分画すると、塩基性画分にのみ活性成分は局在することを確認した。この高極性の画分をフッ素導入ODS樹脂を用いて分画を行ったところ、活性成分は6画分に分散し、活性成分が複数存在することが明らかとした。加えて、活性の認められた6画分から、10種の活性成分の単離に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GRH2遺伝子とGRH4遺伝子の両方を有する水稲はツマグロヨコバイに対して高度に抵抗性を示し、その抵抗性の機構が、複数の摂食阻害物質に基づくことを明らかとした。この結果はGRH2遺伝子とGRH4遺伝子が複数の摂食阻害物質の質的あるいは量的存在に関与していることを明確に示しているものであり、活性成分の同定には至っていないものの、当初の予想に沿った結果と言える。その意味では十分達成されているものと思われる。今後更に、活性成分の同定を行うと共に、これらの遺伝子の機能を近似遺伝子系統(Near Isogenic Line)の水稲を用いて植物二次代謝産物の観点から明らかにすることで、当初の目的は達成できるものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
単離・精製された抵抗性起因物質の構造を現有の赤外吸収、紫外吸収、質量分析、核磁気共鳴等の各種スペクトルを測定することにより決定することを最優先とする。構造解析に関しては必要に応じ、有機合成的手法を用いて推定構造の確認を行う。構造解析は結晶性をよくするために誘導体化を行い、X線構造解析を依頼するのが有効となるかもしれない。また、抵抗性起因物質がタンパク質やペプチドの場合、常法に従いアミノ酸配列を決定する。また、活性成分が明らかとなった後には抵抗性起因物質の品種間差異と活性成分の季節変化に基づく量的変化の関係について調べる。具体的にはGRH2遺伝子のみを持つ品種、GRH4遺伝子のみを持つ品種、両方を有する品種間で、二次代謝成分の質的量的変化を明らかとする。このことにより、遺伝子の機能を二次代謝成分という観点から解析することが可能となり、遺伝子の生体内での機能が明確になるものと思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の計画に基づく経費執行について、4月に支払いすべき経費が残っているため、次年度使用額が存在するように見えるが、実際には、全額執行予定である。そのため、次年度の研究は、当初の計画通り進める予定である。
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