遺伝子ターゲッティング(GT)はゲノム上の標的遺伝子だけを任意に改変可能な技術であるが、植物のGT効率は未だ低い。GTはゲノム上の標的遺伝子上に生じたDNA二重鎖切断の相同組換え(HR)による修復過程を利用して起きると考えられ、HRの効率がGT効率を決定する最も大きな要因であると考えられている。特定の遺伝子の過剰発現や発現抑制といった従来のアプローチでもHR効率やGT効率を上げることができるが、HRの恒常的な活性化はゲノムの不安定性をもたらす。そこで、本研究では作用の ON/OFFの制御が容易であり、かつ汎用的な利用が期待できる化学物質に着目し、化学物質を利用した高効率で簡便なGTシステムを構築することを目的とする。 今年度は、HR検出システムを有するシロイヌナズナ(HRが生じた細胞で機能的なGUS遺伝子が発現し、細胞を青く染色できる)を材料に、HR頻度を変化させる化学物質のスクリーニングを行った。237種類の化学物質を調査した結果、1個体あたりの青く染色された細胞の数、すなわちHRが生じた細胞数が、化学物質未処理個体と比較して有意に増加した化学物質を28種類、減少した化学物質を15種類スクリーニングすることに成功した。この中で特にHR効率を増加させると期待された3種類の化学物質について、再現性を確認した。HR経路で働いているRAD51遺伝子はDNA損傷ストレス条件下でそのmRNA蓄積量が大きく増加する。そこで、これらの3種類の化学物質を処理した際にRAD51遺伝子のmRNA蓄積量を調べたが、変動は確認されなかった。このことから、これらの化学物質は、DNA二重鎖切断を誘導していない可能性が考えられた。
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