研究課題/領域番号 |
23658019
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
今井 勝 明治大学, 農学部, 教授 (20125991)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 食用作物 / 栽培体系 / 生物環境調節 / 温暖化影響 / バイオマス |
研究概要 |
現在、地球規模で温暖化が進行しており、農業の場面で様々な影響が表れつつある。とりわけ農作物の生育、収量、品質が温暖化の影響を受けて向上するのか、悪化するのか知る必要があり、後者の場合には速やかに実験的予測を行って対応策を立てることが求められている。本研究は、この問題解決の一助とすべく、新たに考案した天井なしのオープン・トップである「エアーフィルタ式チャンバ」を製作して制御を行う温度以外の環境要因は自然に近い形に保って作物を栽培し、各種の解析を行うことにしている。 平成23年は、3月11日に東北地方で未曾有の地震と原子力発電所事故が発生したため、研究費の全額交付が大幅に遅れた。本研究は、チャンバ製作に研究費の大半を費やす予定であったため、製作期日も大幅に遅れてしまった。しかしながら、現在、チャンバの基本は出来上がり、また、並行して現有の異なるガス暴露チャンバを利用した類似研究も進めて一定の成果を得た。それらは、以下の通りである。1.製作したエアーフィルタ式チャンバは、外気温に追随して温度を制御することが可能で、かつ、チャンバ内では外気温よりも最大で5℃高く維持することができた。しかしながら、チャンバ内の左右での温度差制御が芳しくなく、チャンバ中央にアクリ樹脂またはテフロンの隔壁を作る必要がある。また、地面からに二酸化炭素の放出があるので、シートで放出を遮断する必要がある。2.ガス暴露チャンバでは、イネに対してオゾンを暴露したところ、濃度依存的に光合成活性が阻害された。しかし、同時に高濃度の二酸化炭素が存在すると、拮抗的に阻害を軽減することがわかった。イネ体内の抗酸化物質の量もオゾン暴露により増大したが、それが光合成阻害を軽減する訳ではなかった。成果は原著論文として、Environ. Control Biol. 50(1): 31-39 (2012)に掲載することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は2年間の実施期間であり、そこでの総合成果を100%とすれば、課題の主体である「エアーフィルタ式チャンバ」のみに関する達成度は50%程度であり、残念であった。言い訳であるが、大地震のために研究費の全額交付が大幅に遅れたことにより、この特殊チャンバの製作も大幅に遅れたことによる(研究費の約9割をチャンバ製作費にあてていたため、発注ができなかった)。もし、東北で大災害がなければ、平成23年度内に70~80%の達成率を得、平成24年度には100%あるいはそれ以上の成果が出たものと考えられた。 しかしながら、研究費配分の遅延の危険を見込んで、課題の一部を現有のガス暴露チャンバによって実施した。それは、イネの光合成に対する温暖化影響の一場面である、高二酸化炭素とオゾンの相互作用に関するもので、こちらの方は円滑に進行したので、所期の成果をあげることができ、研究論文も順調に仕上がった。したがって、当初、本年度には予定をしていなかった後者の実験成果も含めて考えると、70~80%の達成率と言っても過言ではないと思う。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、地面からの二酸化炭素の漏出をシート被覆により遮断する。また、一つのチャンバ内で2種類の温度を創出するために、チャンバ中央の天井部または中央全面にアクリル樹脂またはテフロン膜による遮蔽版を設置する。このことにより、チャンバの中に外気温にリアルタイムで追随する区とそれよりも4~5℃高温で推移する区を設置することができる。これらの改善を年度当初に行い、以下の実験を実施する予定である。1.夏作物のイネを用いた温暖化影響の調査を行う。播種から収穫まで栽培し、その間の草丈、葉数、分げつ数の推移を記録して、伸長・出現速度の変化を比較する。また、収量および収量構成要素に対する温暖化影響を評価するのみならず、子実品質の劣化に対する影響(乳白化、デンプン構成要素のアミロース含量、Mg/K比など)を、解析し、現実に温暖化はどのようなことをもたらすのか、認識したい。2.冬作物のコムギを用いた温暖化影響の調査を行う。調査項目は、ほぼイネと同様である。 本課題は平成24年度で研究期間が終了するので、コムギの収量の項目は欠落することになろう。しかし、科研費のサポートが無くとも研究は継続する予定であるので、成果を論文として取りまとめる際にはすべて含めるつもりである。また、イネでの成果が出次第、日本作物学会または日本作物学会関東支部会にて発表する予定である。さらに、温暖化と作物の関係を研究している機関を訪問して、環境制御の技術的側面を含めた意見交換を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費 559,475円(チャンバの稼働、光合成測定に関わる消耗品)旅費 100,000円(琉球大学)
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