研究課題/領域番号 |
23658020
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
小池 説夫 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター生産基盤研究領域, 専門員 (60355279)
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研究分担者 |
林 高見 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター生産基盤研究領域, 主任研究員 (00355281)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | イネ / 開穎 / 鱗被 / 肥大 / 溶質 / 糖 / 無機塩 |
研究概要 |
イネ開穎時に鱗被が肥大する際には、水と共に溶質の流入があると推定されていたが、溶質成分については知見がなかった。そこで、溶質成分の解析を網羅的に行った。イネ開穎時に、肥大した鱗被を2,500穎花から集め、摩砕後遠心分離上清をメンブレン濾過した。濾液のpHは6.7、溶液の屈折率に基づくBrix値は5.9、蒸気圧法で測定した浸透圧は466mOsm/Kgであった。濾液を適宜希釈し、クロマトグラフィーに供試した。無機イオンはイオンクロマトグラフィーに、糖・有機酸・アミノ酸は適合カラム装填の高速液体クロマトグラフィーに供試した。 この結果、糖ではフルクトース・グルコース・リボース等が検出され、スクロースは検出されなかった。無機塩では、カリウム・マグネシウム・アンモニウム・カルシウム等の陽イオン、および、塩素・硫酸等の陰イオンが検出された。有機酸ではリンゴ酸・コハク酸等が検出されたが、含有量は少なかった。アミノ酸ではグルタミン酸・リジン・アスパラギン酸等が検出されたが、含有量は極めて少なかった。含有濃度(mM)の高い成分は、フルクトース(137.2mM)とグルコース(118.9mM)、カリウムイオン(78.2mM)と塩素イオン(49.8mM)であった。 これらの結果、肥大鱗被での浸透圧を構成する溶質成分は、糖としてフルクトースとグルコース、無機塩としては塩化カリウムが主成分であると考えた。事実、これらの主要溶質成分を再構成した溶液の浸透圧は360mOsm/Kgであり、濾液原液の浸透圧の70%を再現することを実証した。 イネの鱗被の肥大に関与する溶質が明らかにされたのは初めてであり、植物界でも鱗被組織の溶質成分を網羅的に明らかにした最初の例となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イネの鱗被の肥大に関与する溶質成分を明らかにすることが初年度の目的であったので、研究の目的は十分に達成さたと評価する。 十分に評価される理由としては、イネの鱗被の肥大に関与する溶質が明らかにされたのは初めてであり、植物界でも鱗被組織の溶質成分を網羅的に解析した最初の例となることである。 加えて、主要な溶質成分がスクロースでなくフルクトースとグルコースであるという新たな知見を得たことにより、転流してきたスクロースが鱗被細胞壁インベルターゼによりフルクトースとグルコースに分解され、鱗被組織内へ輸送されたとする仮説が提起された。このことにより、鱗被細胞壁インベルターゼの生化学的解析の重要性が示され、糖成分の生成蓄積過程が果たす、鱗被肥大の水分生理機能への寄与解明に繋がると考えるからである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、まず、開穎前後の溶質組成(濃度)の変動を経時的に解析する。続いて、転流してきたスクロースが鱗被細胞壁インベルターゼによりフルクトースとグルコースに分解され、鱗被組織内へ輸送されたとする仮説を実証し、肥大に寄与する糖成分の役割を明らかにする。 加えて、閉花性突然変異イネ、および、最近明らかとなった鱗被特異的アクアポリン遺伝子をRNA干渉により発現抑制した転換体イネを用いて鱗被溶質成分の解析を行い、開穎に寄与する鱗被の水分生理機能に関する知見を深化させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題の推進のため、次年度の研究費は、交付申請時の計画どおり、物品費・旅費・その他に使用する。なお、次年度使用額962円は、研究費を効率的に使用して発生した残額であり、次年度に請求する研究費と合わせて研究計画遂行のために使用する
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