ニホンナシをはじめとする日本における果樹の育種においては,親品種や親系統となる育種素材の家系がかつての主要品種に偏ることが多い.このため,新しく育成された品種ほどゲノムのホモ化レベルが高くなる傾向があると推察され,その弊害が生理障害などの劣悪形質の出現に現れている可能性も示唆されている.本研究では,ニホンナシで唯一,自殖が可能となった自然突然変異第一世代の‘おさ二十世紀’に着目し,その自殖後代品種である‘なし中間母本農1号’をさらに自殖することで後代系統を作出した.自殖によるゲノムのホモ化の影響を研究するために,この系統を擬似S2世代とみなして材料とし,ニホンナシでは初の自殖第2世代についての圃場における形質の発現,ゲノム構造とその機能の解析を行っている.これまでに,ナシ自家和合性品種‘おさ二十世紀’およびそのS1である‘なし中間母本農1号’そしてその自殖後代であるS2世代について,生育評価とSSRマーカーを用いたホモ化レベルの解析を行った. 本年度は,樹園地で育成しているS2世代について,その生育状況と生殖成長への相転換を評価し,ゲノムのヘテロ性との相関を検討した.S2世代は2014年3月時点で5年生であり自根栽培され,剪定は施していない.これらについて花芽の着生状況を調査したところ,22個体中27.3%にあたる6個体で着生が確認され,生殖成長への相転換が認められた.一方,相転換した個体と,自殖弱勢の兆候が顕著に表れる樹高や幹直径との相関は認められなかった.本研究を踏まえて,次年度以降,開花した個体を自殖して,S3世代を獲得し,ゲノムのホモ化が樹体の生育に及ぼす影響をより詳細に調査し,基盤研究に発展させていく予定である.
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