フロリゲンは花芽形成を誘導する物質である。最近、カラタチを台木として成熟相のウンシュウミカンを穂木として接いだものにフロリゲンを直接注入して、花芽形成を誘導できることを見いだした。すなわち、着花しないけれども成熟相にある「栄養的成熟相」の短縮に成功した。しかし、実生樹の開花までの期間の短縮、すなわち、幼若期の短縮には成功していない。そこで、本研究では、ウンシュウミカンに代表されるカンキツを研究材料に、フロリゲン直接注入法の更なる改善を試み、更にフロリゲン直接注入法と他の手法を組み合わせることで、幼若期短縮方法を開発することを目指した。 まず、フロリゲン直接注入法の更なる改善を試みた。その結果、この方法が極めて不安定がわかってきた。まず、品種間差異が顕著であることがわかった。また、同じ品種を用いた場合であっても、実験を行った年により結果に変動があることがわかった。また、フロリゲンの生産自体がばらつくことがわかってきた。このように、少なくとも我々の研究グループでは、フロリゲン直接注入法が現実的でないことがわかってきた。 そこで、フロリゲン直接注入法と他の手法を組み合わせについて検討を行った。まず、開花阻害タンパク質であるTFL1の低分子阻害剤の探索を行った。具体的には、コンピュータシミュレーションにより、TFL1の機能的に重要なポケットに結合する低分子化合物候補を探索した。約20種類の候補化合物を見いだした。併行して行った化合物アレイスクリーニングによりTFL1と結合する化合物1種類を見いだした。そこで、これら物質がTFL1タンパク質と結合するかどうかを表面プラズモン共鳴法を用いて検討した。しかし、全ての物質が結合しないことがわかった。結局、「他の手法」も成功しなかった。 また、これら研究は、カンキツを用いて行ったが、カンキツ自体の基礎研究においてハイインパクトな成果を上げることができた。
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