本研究は,生花あるいはそれらの精油について,①栽培環境と花の香気成分組成(ケモタイプ)との間の関係を明確にすること,また,②ケモタイプの異なる生花やその精油の香気のヒトへの心理・生理的影響を明らかにすることを目的に行った. 最終年度である平成25年度は,バラ生花(品種:ウィッシング)と花弁から水蒸気蒸留で得られたハイドロゾルについてヒトの心理・生理に及ぼす影響を調査した.その結果,バラ生花の香気吸入には鎮静効果があること,ハイドロゾルの香気吸入には興奮効果があることが示唆された.また,測定前後での唾液アミラーゼ濃度の比較により,香気呈示による被験者の心的疲労の低減作用を検討したところ,生花香気による心的疲労の低減効果が示唆された.また,POMSの解析結果より,生花でのみC(Confusion,心的な混乱を示すパラメータ)得点の減少傾向が観察できた. 初年度平成23年度には,ローマンカモミールを用いて光質が香気成分組成に及ぼす影響を調べた.6週間の栽培の間,2週間間隔で3期間の光質を変える処理を行った結果,前歴の光質が香気成分組成に影響することを明らかにした.平成24年度の実験では,27種類の市販ラベンダー精油について,主成分分析によって類似したケモタイプに分類すれば,精油の芳香心理生理学的効果を分類することができるかどうかを調査した.自律神経活動と唾液アミラーゼ濃度の測定結果より,芳香心理生理学的効果は,主成分分析で得られたスコアプロット上の精油の位置関係と関連性があることが分かった. 精油を採取するには相当量の栽培個体が必要なことから,同一材料で試験できなかったが,栽培環境によって変動したケモタイプを香気成分の主成分分析で事前に分類すれば,ヒトに対する心理生理学的効果が判別できることが分かった.
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