ニホンナシはこれまで形質転換系が開発されていなかった。それは、ニホンナシへのアグロバクテリウムの感染時に防御反応(オキシダティブバースト)が起こっているためであると考え、防御反応を阻害する細胞外カルシウムイオンキレート剤(EGTA)を共存培養に用いた。また、物理的に細胞壁に傷を付け形質転換効率化に有効であると報告されている超音波処理を行った。これまで形質転換体を4個体得、形質転換効率は約0.2%であった。形質転換のさらなる効率化を考えたとき、選抜過程でのアグロバクテリウムのオーバーグロースによる致死が効率化の妨げの一つとなっていたので、除菌作用の強い抗生物質であるバンコマイシンについて、通常用いられるセフォタキシムと比較検討した。アグロバクテリウム感染後2ヶ月での外植片の生存率は、カルシウムキレート剤を用いた場合ではバンコマイシンを用いた区の方が高かったが、キレート剤を用いない場合ではバンコマイシンとセフォタキシムの差は認められなかった。また、カルシウムキレート剤ではBaptaについても検討したが、形質転換系の効率化には至らなかった。pBI121のGUS遺伝子部分をブドウ由来myb遺伝子で置き換えたTiプラスミドを持つアグロバクテリウム(EHA105)を感染させて、経時的に観察したところ、感染後2ヶ月ではmybを発現した赤い不定芽様組織が認められたが、5ヶ月後ではほとんどが枯死した。そのため、今後、不定芽様組織の生育を止めないような方法を試みる必要がある。
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