研究課題/領域番号 |
23658040
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高野 義孝 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80293918)
|
キーワード | 植物病原糸状菌 / 炭疽病菌 / オートファジー / 細胞内分解システム |
研究概要 |
本研究では、研究代表者のグループによって植物病原性とのリンクが初めて発見された二つの細胞内分解システム(オートファジーシステムおよびPボディシステム)に焦点をあて、病原性糸状菌(ウリ類炭疽病菌)の植物感染戦略における、細胞内分解機構の生理・分子機能の先駆的解明を試みることを目的とする。さらに、病原性に必要な細胞内分解系の動態を、病原菌そのものでイメージングできるシステムの樹立を試みる。本年度は、選択的オートファジーと非選択的オートファジーの植物感染場面での機能重複性について検討するために、選択的オートファジーに関連するATG11遺伝子と非選択的オートファジーに関連するATG17遺伝子の二重遺伝子破壊株の作出を試みたが、100株以上の形質転換体を調査した結果、二重破壊株の同定には至らなかった。一方で、新たに、ペルオキシンPEX14が本菌のペルオキシソーム選択的オートファジーにおいて非常に重要な役割を担っていることを発見した。また、脱キャップ酵素DCP1がUPF1(RNAヘリカーゼ)依存的なNMDに関与するかを調査するために、NMDレポーターラインに対してDCP1遺伝子を破壊し、その破壊株のNMD活性を調査した。その結果、DCP1破壊株においては、UPF1破壊株と異なりNMDの欠損は観察されず、レポーター系がモニターするNMDにはDCP1は必須ではないことが示唆された。また、Pボディに局在すると推定されるDEAD-box型 RNAヘリカーゼをコードするDHH1遺伝子について、破壊株を作出した結果、DHH1破壊株は顕著な生育低下を示し、さらに胞子形成能の欠損を示した。さらに、UPF1、DCP1、DHH1について、そのGFPとの融合タンパク質を本菌において発現させた場合、共通してP ボディと推定されるドット状のシグナルが観察され、3因子のP ボディへの局在が推定された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に計画したとおり、本年度はATG11とATG17の二重遺伝子破壊株の作出を試み、100株以上の形質転換株を調べた結果、二重遺伝子破壊株は分離されず、二重遺伝子破壊の致死性の可能性が示唆された。また、新たに、ペルオキシンPEX14が、本菌のペルオキシソーム選択的オートファジーにおいて非常に重要な役割を担うことを発見した。この発見は、本選択オートファジーのメカニズムの理解において大きな前進であるといえる。また、昨年の計画通り、DCP1遺伝子を破壊し、その破壊株のNMD活性を調査し、レポーター系がモニターするNMDにはDCP1は必須ではないことを明らかにすることができた。また、DEAD-box型 RNAヘリカーゼをコードするDHH1遺伝子について、破壊株を作出し、その表現型を明らかにすることに成功した。さらに、GFPを用いた細胞内局在解析を実施して、UPF1、DCP1、DHH1が共にP ボディと推定されるドット状のシグナルに局在することを発見した。以上より、本研究は順調に進行していると評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
研究は順調に進行しており、基本的に今後も当初の計画に従って研究を推進する。オートファジー経路に関しては、まず、選択的オートファジーと非選択的オートファジーの植物感染場面での機能重複性について、PEX14遺伝子とATG17遺伝子の二重遺伝子破壊を検討する。また、PEX14破壊株の詳細な表現型解析を実施し、さらに、PEX14と蛍光タンパク質との融合タンパク質を発現させ、その細胞内局在性についても明らかにする予定である。また、非選択的オートファジーと選択的オートファジー(ペキソファジー)の両経路の活性を同時にモニターできる病原菌レポーターラインを作出し、その動態を調査する。P ボディ経路に関しては、DHH1破壊株のさらなる表現型解析を実施する。さらに、UPF1に赤色蛍光タンパク質(RFP)を融合したタンパク質とDCP1-GFP融合タンパク質をウリ類炭疽病菌において共発現させて、その共局在を調べる。さらにこの共発現株を用いて、NMD因子(UPF1)とNMDとは異なるP ボディ因子(DCP1)の詳細な動態観察を同時におこなう。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、遺伝子破壊ベクターの構築等、予定通りすすめることができたが、解析に集中するため、国内学会および国際学会への参加を次年度に延期すること決断した。この学会参加延期などにより、次年度に使用する研究費が発生している。次年度では、当該研究費を先に述べた研究(各種レポーターコンストラクトの構築、形質転換株の作出、解析)、国内学会および国際学会への参加費に充てる予定である。
|