真核生物は様々な細胞内分解システムを有し、このことは真核細胞におけるこの「分解」というイベントの重要性を示している。しかし、植物病原糸状菌の感染戦略と細胞内分解システムを繋ぐ研究は非常に限られている。申請者のグループはオートファジーと呼ばれる細胞内分解系によって、ペルオキシソームが選択的に分解されることが、植物病原糸状菌(ウリ類炭疽病菌)の植物感染に必要であることを報告し、さらにナンセンス変異依存 mRNA 分解 (NMDと略される)と呼ばれるRNA分解機構の因子が、感染に必要であることを発見していた。 本研究では、病原菌におけるこの二つの分解システムの分子的アウトラインを解明することを主目的として研究をおこなった。その結果、ATG11遺伝子が本菌の病原性発現に必要であり、さらにペルオキシソーム選択的オートファジーに関与することを明らかにした。この結果より、すでに報告しているATG26に加え、ATG11が選択的オートファジーに必要であることが判明した。さらにATG17遺伝子などの解析より、選択的オートファジーに加えて、非選択的オートファジーが本菌の病原性発現に必要であることを発見した。興味深いことに、宿主侵入のための初期形態分化に関して、両オートファジー経路が互いに補完的な役割を担うことを示唆する結果も得た。一方、RNA分解系に関しては、NMD以外のPボディ関連mRNA分解機構も本菌の宿主感染において必要であることを明らかにした。最終年度には、細胞内のmRNA分解の場として注目されているPボディに関して、病原菌生細胞内における可視化に成功した。さらに最終年度には、選択的および非選択的オートファジー、NMD、およびPボディ動態をモニターできる病原菌細胞ラインを利用しこれらの細胞内システムを阻害する化合物スクリーニングを実施するための基盤構築をおこなった。
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