研究課題/領域番号 |
23658047
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
三浦 健 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (60219582)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 寄生蜂 / ウイルス様粒子 / RNA干渉 |
研究概要 |
本研究では多種類のチョウ目害虫に寄生することができるギンケハラボソコマユバチが寄生時にホストに注入するウイルス様粒子(VLP:超微細構造はウイルス粒子に似るが遺伝子となる核酸を含まない)の機能を解明することを目的に研究を行っている。 本年度はまず、ギンケハラボソコマユバチの毒液腺のcDNAライブラリーのランダムシーケンスから得た219個のESTクラスターの核酸配列情報のパブリックデータベースへの登録を行った。さらに、これらのうちから次の段階の解析へ回した21個の因子の全長の配列を決定し、これらについてもデータベースへの登録を行った。続いて、これら21個の因子の発現レベルを調査し、毒液腺特異的な発現を示す10因子についてRNA干渉による遺伝子ノックダウンを試みたところ、5因子について有効なノックダウンを得た。 当初の計画通り、これら5因子について様々な組み合わせでノックダウンハチを作成し、各ノックダウンハチから調整したVLPをチョウ目害虫のin vitroの血球培養系に加えて血球の接着および伸展に与える影響を野生型の場合と比較検討した。その結果、04_A07および03_A09と名付けた2つのクローンをダブルノックダウンした場合に、ホスト昆虫の生体防御に重要な顆粒血球およびプラズマ血球の仮足形成と伸展が野生型VLPに比べて顕著に回復することを発見した。これらの2因子はサイズ、等電点、アミノ酸配列などに一定レベルの共通性があり、これまで知られているタンパク質との相同性が見いだされないことから、血球を含めた細胞の運動を制御できる可能性を持った新規因子群を同定したと考えた。また、これら2因子をノックダウンしたハチをin vivoでホストに寄生させた場合の寄生成功率には野生型との差はなく、寄生の成功自体はより多くの因子の機能によって総合的に達成されていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記述した当該年度の研究計画では、解析予定因子をそれぞれの推定される機能から細胞接着阻止やアポトーシス誘導、機能未知だが発現量が多いものなどの6群に分類し、それぞれに属する因子ついて、1)まず定量RT-PCR法により因子のノックダウンを確認してから実験に用いる;2)in vitroの血球培養系に、RNA干渉法を用いてそれぞれの因子を欠損したノックダウンハチから調整したVLPを加え、血球の接着および生存に与える影響を野生型の場合と比較検討する;3)それぞれのノックダウンハチを作成し、in vivoでの寄生の成功の有無と表現型について検討する、であった。 データベースへの配列の大量登録などの作業が発生したが、「研究実績の概要」のセクションで述べたように、これら予定した内容についてもおおむね遂行することができたと考えている。また、研究目的である「VLPの機能を解明して学術的に重要な新知見を得るとともに、産業分野で利用可能な有用遺伝子資源の探索を行なう」に関しても、細胞の仮足形成と進展を阻害する新規な2種のタンパク質を同定したことにより、ある程度達成されたと考えた。ただし、上記1)でのノックダウンの確認については、半数ほどの因子で有効なノックダウンが観察されず、2本鎖RNAを作成する位置を変えるなどの検討が必要であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策についてであるが、まずこれまで得ている219個のESTクラスターおよび21個の完全長クローンについて、もう一度BLASTX解析を用いたアノテーション業をやり直す予定である。これは近年、続々と様々な生物種から得られた配列がパブリックデータベースに登録されるようになってきており、アノテーションのアップデートは成果を取り纏めて発表する際にも必須となるからであり、また新しく登録されている因子との相同性が見いだされれば、これまで機能未知としていたギンケハラボソコマユバチの因子についても機能が推定できるようになる可能性もあり、新たな解析対象を見出すうえでも重要な作業であると考えている。 また、今後は当該年度の研究によりホストの生体防御に重要な血球の伸展を阻害することが見いだされた、代表クローン名から仮に名付けている2つの新規因子、04_A07および03_A09についてのさらなる解析を中心に進めていきたいと考えている。まず、モデルホストとして用いているアワヨトウの血球以外にその他の昆虫の血球、あるいは培養細胞の仮足形成・進展に及ぼすこれら2種の因子の影響を評価し、これらの阻害作用が広い作用スペクトラムを持つものかどうか明らかにしてゆく。さらに、培養細胞での発現とその表現型の調査、さらに組み替えタンパク質や特異抗体を用いた検討などを通じ、これら新規因子の性格付けを行ってゆく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画している研究の遂行はほぼ現有設備あるいは共同利用可能な設備でまかなうことができるため、次年度の研究費については、今年度の少しの残額を含め、その多くを消耗品を中心とした物品費にあてたいと考えている。より具体的には、たとえば2本鎖RNA作成や核酸の配列決定、細胞へのプラスミド導入や組み替えタンパク質の作成・生成に用いる比較的高価な特殊試薬類の購入に使用したい。また、成果発表のための旅費、論文掲載費や論文別刷代、報告書の印刷費にも使用する予定である。
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