寄生蜂であるギンケハラボソコマユバチが産卵時にホスト昆虫に注入するウイルス様粒子(VLP)が持つ生体防御応答の抑制作用の分子基盤を解明して昆虫の生体防御系の特性について学術的に重要な新知見を得るとともに、産業分野で利用可能な有用遺伝子資源の探索を行なうことを目的として本研究を行った。 まず、ハチが用いる主要な分子のパートリーを網羅的に取得するため、毒液腺のcDNAライブラリーからのランダムな配列決定とクラスタリングを行ない、パブリックデータベースへ登録した。次に219個のESTクラスターの部分アミノ酸配列に基づいて簡便なアノテーションを行ってそれぞれの機能を推定した。次に5個の候補因子について様々な組み合わせでノックダウンハチを作成して得た変異型VLPの機能解析を行い、新規な2種の因子が、ホスト昆虫の生体防御において中心的な役割を担う接着性血球の仮足形成と伸展を阻害する活性を持つことを発見した。 最終年度には、それぞれのクラスターについて精密にアノテーションをやり直した。また複数の因子についてのノックダウン実験を行ったが、ホストの生体防御に影響を与える新たな因子は残念ながら見出せなかった。現在はこれらの成果について論文を準備中である。 当初計画した内容のすべてを期間内に実施することは残念ながらできなかったが、1)ギンケハラボソコマユバチが用いる主要分子レパートリーを提示し、2)VLPに含まれる新規因子が実際にホストの生体防御応答を抑制することを示し、3)その抑制の様式から、血球を含めた細胞の運動を制御できる可能性を持った新規遺伝子2種を得ることができた。また派生的な成果として、4)ギンケハラボソコマユバチでの研究を通じて確立した手法を適用することにより、貯穀害虫・コクヌストモドキの生体防御系についても複数の新知見を得た。
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