昆虫の免疫機構は脊椎動物とは異なり、獲得性免疫機構は持たず、迅速で非特異的に行われる自然免疫機構のみを有し、一度侵入・感染した病原体に対する免疫記憶はないとされる。しかし、一度侵入・感染を受けた特定の病原体が再度侵入・感染を受けた場合、昆虫はそれを記憶し、より抵抗性が増し、病原体の排除する効率が上昇するかについては十分検証がなされていない。そこで本研究では、昆虫の免疫記憶の有無を明確にするための検証を行う。今年度は、カイコを材料として研究を行った。無処理、あるいは3齢1日目にグラム陽性細菌である大腸菌を一次経皮接種した幼虫に対し、5齢3日目に大腸菌を経皮接種を行い、接種後1時間あるいは2時間後の体内の細菌数を測定した。その結果、大腸菌を一次経皮接種した場合、1時間後および2時間後の体内の菌数はいずれも、一次経皮接種しなかった場合と比較し、減少することが明らかとなり、一次経皮接種することで、速やかに体内に侵入した細菌が排除されることが示された。一方、一次接種した幼虫の体液の抗菌活性は、一次接種しなかった場合と比較しても、ほとんど差がみられなかったことから、一次接種した場合の体内の細菌数の減少は、抗微生物タンパク質の産生量あるいは活性度の違いによるものではなく、細胞性免疫機構が関与することが示唆された。
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