研究課題/領域番号 |
23658057
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
南澤 究 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (70167667)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 土壌微生物 / 共生 / ゲノム比較 |
研究概要 |
非共生または植物共生表現型が異なる「超近縁菌」のゲノム比較により、植物共生遺伝子・共生領域・共生因子を明らかすることを本研究の目的とした。「超近縁株」戦略のひな形として、S23321株ゲノムとUSDA110株ゲノムの詳細な比較解析を行った。USDA110株の共生アイランド周辺配列とS23321ゲノムの比較により、S23321株はtRNA-Valの配列も含めて共生アイランドのボーダー配列(USDA110)を保持しており、S23321株は共生アイランドが転移する前の祖先型ゲノムを持っていることが示唆された。さらに、S23321株は系統的にはUSDA110株に近縁であるが、窒素固定(nif)遺伝子群は共生アイランド上のnif遺伝子群とは異なり、むしろ光合成茎粒菌ORS278株のnif遺伝子群と相同性が高かった。S23321株はほぼ完全な光合成遺伝子を保有していた。これらの結果より、ダイズ根粒の共生アイランドが挿入されると、本来保有していたnif遺伝子群が排除されるのではないかと推定された。これらの成果を論文として公表した(PMID: 22452844)。Rj2因子保有ダイズに不和合性を示すUSDA122のType IIIタンパク分泌系の遺伝子破壊株を作成し、接種実験を行ったところ、不和合性現象が完全にキャンセルされた。この結果は、ダイズ根粒菌のType III分泌系が宿主植物に打込むエフェクターが不和合性現象を起こしていることを強く示唆した。Cluster IIIのAgromonas oligotrophica S58株ゲノムを決定したところ、光合成茎粒菌ORS278株の保有する「共生」関連遺伝子が保存されていたので、A. inidicaに接種したところ窒素固定根粒を形成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は研究が劇的に進行した。最も着目されるのは、ダイズ栽培種に中に含まれているRj2因子と特定の根粒菌の不和合性現象がType IIIタンパク分泌系に依存することをダイズ根粒菌の遺伝子破壊株で初めて証明したことである。現在我々が得ているUSDA122株のドラフトゲノム情報を利用した超近縁株(USDA110 vs USDA122)比較を実施中であるが、USDA122株の不和合性現象を起こしている可能性のあるエフェクタータンパク質の遺伝子候補が得られている。Cluster IIIのAgromonas oligotrophica S58株がA. indicaの共生菌であることは当初の予想と反した。しかし、光合成茎粒菌ORS278とA. indicaのはNod factor非依存性の茎粒および根粒形成をする原始的な共生とされており、Agromonas oligotrophica の他の株や近縁菌の接種実験結果次第では、Bradyrhizobium属根粒菌の植物共生の起源にも関与している可能性がある。また、S23321の成果も実はインパクトが高く、論文発表後海外のグループから菌株の提供や共同研究等の連絡がきている。
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今後の研究の推進方策 |
Cluster Iについては、USDA122株の野生株およびType III構造体変異株の分泌タンパク質についてSDS-PAGE等で解析を行い、Type III構造体変異により分泌タンパク質が実際変化しているか検討する。USDA122株のドラフトゲノム情報を利用した超近縁株(USDA110 vs USDA122)比較の戦略を実施しする。USDA110とUSDA122のType III構造体はタンパク質レベルで100%一致であるので、USDA122株のエフェクターはUSDA110株でも分泌されると推定されるので、USDA122株が保有しているエフェクター遺伝子候補のコスミッドをUSDA110株に導入し不和合性現象現象を起こすか検討する。 Cluster IIIについては、Agromonas oligotrophicaS58については、GusA/ DsRed標識菌を作成し、根粒、茎粒形成について形態的観察を行う。また、Agromonas oligotrophicaの複数株とその近縁菌のA. indicaなどへの接種実験と光合成アンテナ pufABML遺伝子のサザンハイブリを行う。本研究で全ゲノム配列決定したS23321株、S58株の情報を駆使して、A. indicaへのNod factor非依存性の茎粒および根粒形成をする原始的な共生に関わる遺伝子候補やゲノム領域を絞り込むことを試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
全体として研究が極めて順調に進み、情報解析でだけでなく実験項目を前倒しで進める必要がでてきた。多数の菌株の接種実験などを実施するために、現有施設のみでは難しく、菌株の培養用のバイオシェーカーがどうしても必要である。H23年度繰り越し分は本年度予算と合わせ、主に、培養試薬類、ポット栽培用の資材、分泌タンパク質分析用試薬、分子生物学用試薬の消耗品として使用する予定である。
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