研究課題/領域番号 |
23658064
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
横田 篤 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50220554)
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研究分担者 |
石塚 敏 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00271627)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 二次胆汁酸 / デオキシコール酸 / リトコール酸 / フマル酸 / 嫌気呼吸 / 腸内細菌 / 大腸癌 |
研究概要 |
1.目的:本研究では、大腸内に生成される発癌性二次胆汁酸を低減させる新しい手法として、腸内細菌の嫌気呼吸の促進を基軸とするエネルギー代謝制御の有効性に関して検証する。2.方法:発癌性二次胆汁酸は腸内細菌による胆汁酸の還元的代謝で生成される。そこで電子受容体として有機酸の一種フマル酸を用い、フマル酸を添加した飼料をラットに摂食させ、腸管内でフマル酸呼吸と呼ばれる腸内細菌の嫌気呼吸を活性化させる。これにより胆汁酸の酸化的代謝を促進させ、発癌性二次胆汁酸の生成が低減するか検討する。本年度は飼料中に添加するフマル酸の濃度が胆汁酸代謝に与える影響を検討した。5週齢のWKAH/Hkm slc雄ラットに基本飼料(AIN-93準拠、20%カゼイン食)を摂取させ、予備飼育後、ラットを群分けし、コントロール群は引き続き同様の基本飼料を、フマル酸群は基本飼料にフマル酸2ナトリウムを1、5、10%添加した飼料を摂取させ、14日間の試験飼育を行った。最終日に解剖を行い、盲腸内容物を採取し、胆汁酸生成量、有機酸生成量を測定した。3. 結果:胆汁酸生成量、有機酸生成量を測定した結果、フマル酸ナトリウム1%添加区ではコントロール群と有意な変化は認められなかったが、5、10%添加群では、フマル酸が還元されて生成したと見られるコハク酸が容量依存的に増大した。胆汁酸代謝に関しても、デオキシコール酸やリトコール酸といった発癌性二次胆汁酸生成量が有意に減少するなど、期待された結果が得られた。しかし、フマル酸濃度が10%の場合、ラットが下痢を起こし、体重増加が抑制されるなど、生育に悪影響が出た。このように、期待した効果を得るフマル酸添加濃度は5~10%と高く、かなり極端な条件を必要とすることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度としては60%程度の達成率と考えているが、概ね順調に進展していると評価した。以下にその理由を述べる。 本研究は「腸内細菌の嫌気呼吸の促進を基軸とするエネルギー代謝制御により、発癌性二次胆汁酸生成の抑制が可能か?」に関して、実験動物としてラットを用いて検証するもので、具体的には、(1)フマル酸添加食をラットに摂食させ、フマル酸の摂取が、(2)盲腸内発酵におよぼす影響、(3)発癌性二次胆汁酸生成におよぼす影響、(4)盲腸内細菌叢におよぼす影響、を調べ、これらのデータを統合して「腸内細菌のフマル酸呼吸促進による発癌性二次胆汁酸生成抑制の可能性」を検証する予定としている。 この試みは勿論前例が無く、フマル酸の添加がどのような効果をもたらすかについては全く未知であり、チャレンジングな課題である。しかもフマル酸はTCAサイクルの中間体であることから、消化管内での吸収も起こりやすいと想像され、盲腸まで到達して所期の効果を顕すには直感的に困難が予想された。しかし、高濃度とはいえ、5~10%のフマル酸を飼料に添加することで、ある程度想定された盲腸内の嫌気呼吸の生起やそれと相関した胆汁酸代謝の制御が検出されたことは、極めて有意義な成果であると自己評価している。この結果を基にして、次年度の飛躍的な展開を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
以下の3点を検討する:1.フマル酸の添加方法に関する改善:初年度の結果から、効果を得るためには高濃度のフマル酸を飼料に添加する必要を認めた。これを改善するため、フマル酸を腸溶性カプセルに封じ込め、消化管内での吸収を極力抑え、盲腸への到達性を高めて効果を検討する。そのためにフマル酸カプセルを調整した(森下仁丹株式会社のご好意により調整済み)。来年度はこれを用いてフマル酸の効果を再検討する。ただし、カプセルを用いた場合は技術的な制約から、飼料中のフマル酸濃度を2%までしか高められないので、どのような効果が得られるかは試験結果を待たなければならない。2.胆汁酸循環量の増大:基本食で飼育すると胆汁酸循環量が低く、二次胆汁酸の代謝を調べるためにはやや検出感度に難がある。そこで、基本食を高脂肪食として行い、胆汁酸循環量を高めて試験する。3.腸内細菌叢の解析:もし適切なフマル酸添加条件が定まれば、盲腸内容物について菌叢解析を行い、胆汁酸代謝の変化と腸内細菌叢の変化の相関を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に実施したラット飼育実験等の支払に使用する。
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