研究課題/領域番号 |
23658065
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
五味 勝也 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60302197)
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キーワード | 糸状菌 / パラログ / 遺伝子発現 / 遺伝子クラスター / マルトース資化 |
研究概要 |
麹菌にはMALクラスターと相同性の高いMALホモログクラスターが存在し、このホモログクラスターは通常の培養条件では発現がほとんど認められないが、malPやmalRを破壊した株ではホモログクラスターを構成するmalPホモログ、malTホモログおよびmalRホモログの発現が強く誘導されることが分かった。このことからホモログクラスターは本来のMALクラスターの機能が失われることで発現が誘導され、マルトース資化能を相補する可能性が示唆された。野生株ではホモログクラスター遺伝子はほとんど発現が認められないため、malPホモログとmalRホモログを構成的なプロモーターに連結して、それぞれmalP破壊株とmalR破壊株に導入することにより、破壊株が示すデンプン培地での低生育状況の回復を調べたところ、malPホモログでは相補性が見られたが、malRホモログでは相補性は認められなかった。MalPホモログとGFPの融合タンパク質を発現させて細胞内局在解析を行ったところ、MalPホモログは細胞膜上に局在することが観察されたことから、トランスポーターとして機能している可能性が示唆された。また、グルコースが存在するとエンドサイトーシスによって液胞に輸送されることが認められた。一方、転写因子のmalRホモログを人為的に高発現させた株では、期待されたホモログクラスター遺伝子の発現の上昇は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
実験に用いる予定であったmalPとmalRの遺伝子挿入破壊株が断片の巻き戻りによる脱落のため表現型が不安定であることが分かったため、前年度に新たにmalPとmalRの遺伝子置換破壊株の作製を行う必要が生じ、その作製に時間を要したことから、malPとmalPのホモログの二重破壊株およびmalRとmalRのホモログの二重破壊株の作製まで進むことができなかった。さらに定量PCR装置の故障と再購入もあったため、malPとmalRの破壊株を用いた発現プロファイル解析が十分に行えなかった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)malPとmalPのホモログの二重破壊株およびmalRとmalRのホモログの二重破壊株を作製し、マルトースやデンプン培地上での生育への影響やMALクラスター構成遺伝子の発現プロファイルを調べる。malP破壊株に野生型のmalPを戻すことによって、ホモログの発現が野生株と同様に見られなくなるか調べる。また、MalPと同様にマルトース取込み活性を有していることが明らかな酵母のマルトーストランスポーターMAL61を破壊株に導入することにより、ホモログの発現への影響を観察する。 (2)malR破壊株及びmalP破壊株にMalP及びMalT自体を構成的なプロモーター下で発現させ、ホモログの発現に及ぼす影響を調べる。また、相同性が若干低く構造は異なるものの機能は同一と考えられる酵母のマルトーストランスポーターMAL61とマルターゼMAL62を麹菌破壊株で発現させることにより、タンパク質の構造がホモログクラスターの発現に影響するか調べる。 (3)MalP及びMalPホモログの炭素源依存的な細胞内局在ならびに分解様式の詳細について解析を行う。また、構成的に発現している転写因子のMalRとMalRホモログの細胞内局在や活性化機構についても解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、malP及びmalPホモログの二重破壊株と、malR、malRホモログの二重破壊株を作製し、マルトース資化能の低下などの表現型やクラスター遺伝子群の発現プロファイルを解析するとともに、MalPやMalTのタンパク質の存在や構造の変化がクラスター遺伝子の発現に及ぼす影響を解析する。さらに他の糸状菌における同様な発現制御機構の有無を検証し、成果を取りまとめるために、遺伝子工学用試薬 500千円、ガラスおよびプラスチック器具 200千円、研究成果発表旅費 50千円、研究成果投稿料 50千円、を使用する予定である。
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