1.比較ゲノム解析とトランスクリプトーム解析 食酢醸造株であるAcetobacter pasteurianus NBRC3283を用いて、種々の炭素源を用いた培養条件、および、エタノール酸化過程の生育フェーズによるトランスクリプトーム変化について、DNAマイクロアレイを用いて解析した。その結果を昨年度解析した酢酸菌の野生株Acetobacter aceti NBRC14818を用いたトランスクリプトーム解析結果と比較したところ、両菌株に共通した現象として、エタノールの存在によりTCA回路関連の遺伝子発現が顕著に抑制されることが明らかとなった。これは、エタノールから酢酸への不完全酸化により生じる電子を用いた酸化的リン酸化によりATP生産が十分に行われる条件では、炭素源の異化代謝を抑えるようなメカニズムが働いているためと考えられた。また、エタノールとグルコースが共存する酢酸生産条件では、ストレス応答関係の遺伝子発現が誘導されていた。これは、解糖系から供給されるピルビン酸やアセチルCoAが余剰となることが原因と予想された。 2.末端酸化酵素の機能解析 A. acetiの4種の末端酸化酵素について酵素学的な性質の解析を行うために、その遺伝子を大腸菌の呼吸酵素欠損株に導入して異種発現を試みたが、いずれの遺伝子を用いても大腸菌の呼吸欠損を相補することはできなかった。この原因として、酢酸菌の末端酸化酵素の成熟化に必要な因子が大腸菌では欠如しているか、大腸菌の呼吸鎖との電子授受がうまくいかない可能性が考えられた。
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