研究課題/領域番号 |
23658071
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
丸山 潤一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 助教 (00431833)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 麹菌 / 有性世代 / 接合型 / 菌糸融合 / 菌核 |
研究概要 |
麹菌Aspergillus oryzaeは産業微生物(糸状菌)であり、日本の伝統的な食品醸造に用いられているとともに、有用タンパク質生産の宿主として利用されている。しかし、麹菌では有性世代が発見されておらず交配ができないため、複数の株の優良な表現型を備えた株の育種を効率的に行うことは困難である。本研究では、麹菌の有性世代を初めて発見することを目的とした。2005年にゲノム配列が解読された麹菌RIB40株は、接合型遺伝子座にMAT1-1遺伝子をもつことがわかっていた。我々は以前、醸造用の麹菌株について接合型を調べた結果、MAT1-1型株とMAT1-2型株が約半数ずつ存在することを明らかにした。このことから、麹菌がヘテロタリック(雌雄異型)な有性生殖を行う可能性が見出された。本年度は、RIB40株由来のMAT1-1型株と、その接合遺伝子座にあるMAT1-1遺伝子をMAT1-2遺伝子に置換した株を用い、DNAマイクロアレイ解析により遺伝子発現を比較した。その結果、接合フェロモンなどの遺伝子発現が接合型依存的に制御されていることを明らかにした。このことは、麹菌の接合型遺伝子が、有性生殖において機能する可能性を示唆する結果である。一方で、有性生殖を発見するためには、異なる2つの接合型株が菌糸融合を行う必要があるが、麹菌の菌糸融合については約50年前の論文以降、報告されていない。本研究では、麹菌において菌糸融合を検出するため、アデニン要求性をもち緑色蛍光で可視化した株、ウリジン/ウラシル要求性をもち赤色蛍光で可視化した株をそれぞれ作製した。それらの株を混合培養した菌体を最少培地に植えたところ菌糸の生育が見られたことから、お互いの栄養要求性の相補が確認された。蛍光顕微鏡で観察すると、緑色・赤色両方の蛍光がみとめられた。以上の実験から、麹菌が菌糸融合能をもつことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
有性生殖を発見するために、異なる2つの接合型株が菌糸融合を行う必要があるが、麹菌の菌糸融合については約50年前の論文以降、これに続く報告が存在しない。また、これまでに麹菌で有性世代が発見されていない原因の一つとして、菌糸融合の効率が低いことが考えられている。本年度、麹菌の菌糸融合能を示したことは大きな前進であり、次年度で、その有性世代を発見する可能性が高まったと言える。また、複数の優良形質を併せもつ麹菌株を育種する際に、従来はプロトプラスト融合による方法が行われていた。これと比べ、本年度確立した菌糸融合は短時間かつ低コストの有効な方法であり、麹菌の効率的の育種に応用できる可能性を示した。以上のことから、本研究は現時点で当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
麹菌で有性世代を発見するため、菌糸融合のほかに菌核の形成が重要なファクターであると考えている。菌核は気中菌糸が接着・融合を繰り返して密集した厚膜の小粒塊であり、有性世代の構造である子嚢殻と類似している。麹菌では菌核の形成能が低下しており、このことが有性世代の発見を困難にしている一因と考えられている。したがって、麹菌で有性世代が発見される際には、菌核が発達・成熟し、その内部に有性胞子が形成されることが期待される。麹菌の菌核形成についての知見はほとんどなかったが、最近、菌核形成を制御する転写因子SclR、EcdRが発見された。次年度は、これらの遺伝子発現を人為的に変化させ、菌核形成を促進させることで、麹菌の有性世代の発見を試みる予定である。また、麹菌は多細胞であり、隔壁により仕切られた細胞が連なることで菌糸を構成している。隣り合う細胞は、隔壁にあいた小さな穴である隔壁孔を通じて、細胞間連絡を行っている。我々は最近、この細胞間連絡を制御する因子AoSO、AoFus3が菌核形成にも関与する興味深い現象を見いだし、菌核形成と細胞間連絡が機能的に関連していることが示唆された。次年度は、細胞間連絡を制御する因子と相互作用するタンパク質の機能解析を進めることで、菌核形成の詳細なメカニズムを解明することを予定している。このような新しい観点からの解析も進めることで、麹菌の有性生殖の発見の効率化につながることを期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
所属研究室の現有の機器・設備を使用するため、プラスミドの作製に用いるGatewayシステム、PCR、制限酵素などの消耗品費が主体となる。また、研究成果発表のための旅費を計上した。
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