食糧生産の持続性確保のためには、作物生産に必要な窒素肥料をいかに地球環境への負荷なく確保するかという問題があり、その解決策は生物窒素固定を利用すること以外にない。イネ栽培においても、根圏窒素固定細菌を生物窒素肥料として活用することが必要である。そこで、イネ根圏が複雑な複合微生物系であることを直視し、複数の細菌の存在が窒素固定細菌の窒素固定能発揮にいかに関わるかを探る研究を行った。 イネ根圏より分離した窒素固定細菌(Azospirillum lipoferum TA1とKlebsiella oxytoca R16)をRennie培地(炭素源が豊富な窒素固定能発揮培地)で液体培養すると、それぞれ弱い窒素固定能しか発揮しなかった。ところが、水田土壌から分離した非窒素固定細菌(9種類)とR16株とを混合して培養したところ、単独培養時の8倍程度の窒素固定能を発揮した。そこで、9種類の非窒素固定細菌の様々な組合せとの混合培養でR16株の窒素固定能を増強する細菌を探ったところ、Pseudomonas sp.RKF06に強い窒素固定賦活化能があり、RKF06株とBacillus sp.RKC03が共存するとR16株の窒素固定能がもう一段強まることが明らかとなった。 ところでイネ根圏では、多種類の細菌の大部分は根の表面や土壌粒子に付着した状態で複合細菌系となっている。そこで、Rennie培地を寒天で固化した固体培地でR16株とRKF06株を混合培養して窒素固定能を測定したところ、R16株の単独培養に比較して2倍の窒素固定能を発揮した。さらに、イネ水耕液を寒天で固化した培地でイネを栽培し、その根圏にR16株とRKF06株を混合接種しても、R16株を単独接種したものより顕著に高い窒素固定能を発揮した。これより、RKF06株の窒素固定賦活化能は、イネ根圏でも機能することが明らかとなった。 また、RKF06株をRennie液体培地で培養し、その培養上清を寒天で固化してR16株を接種したところ、窒素固定能が2割増加した。これにより、RKF06株の窒素固定賦活化能の一因は、RKF06株が分泌する何らかの化学物質であることが判明した。
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