研究課題/領域番号 |
23658076
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
日比 慎 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (30432347)
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研究分担者 |
安藤 晃規 京都大学, 学内共同利用施設等, 助教 (10537765)
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キーワード | 色素増感太陽電池 / 微生物酵素 / 有機ルテニウム錯体 / 微生物スクリーニング / 酵素触媒 |
研究概要 |
色素増感太陽電池(DSC: dye sensitized solar cell)は、高効率さと低製造コストを併せ持つ次世代の太陽電池である。現在DSCの光‐電気変換効率は最大で約11%であり、約20%の効率を持つシリコン系の太陽電池と比較すると低いため、今後の大幅な改善が必要となっている。DSCにおいて高い電力変換効率を得るための重要な要素の1つは色素であり、近年効率を向上させる様々なタイプの新たな色素が開発されている。DSCに最も良く使われている基本的な色素はルテニウム有機金属錯体系色素である。近年の研究ではこの色素をベースに改良を加えた構造類縁体が効率の向上に良好な結果を示している。本研究では微生物酵素の持つ多彩な触媒作用により、ルテニウム色素RuL2(NCS)2の分子構造の一部を修飾・置換することでその機能性の向上を目指す。 本年度は前年度までに微生物スクリーニングによって得られたルテニウム色素資化性菌を用いて、ルテニウム色素変換反応を実施した。N3色素資化性菌としてバクテリア97株・糸状菌12株、そしてBlack Dye色素資化性菌としてバクテリア104株・糸状菌18株の洗浄菌体を生体触媒として使用し、各ルテニウム色素を含む反応液中の紫外可視吸収スペクトルの変化を観測した。ルテニウム色素の紫外可視吸収スペクトルの変化した微生物菌体反応液に関しては、順次DSCへの適用と光‐電気変換効率の評価を実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにルテニウム色素資化性菌の菌体を生体触媒としてルテニウム色素変換反応に供し、微生物により変換された色素に関してはDSCに用いる色素としての性能評価を実施してきた。ルテニウム色素資化性菌としてはすでに多種多様な微生物類を取得しており、ルテニウム色素を変換する酵素が自然界において広く存在していることを期待させる結果となった。各微生物の菌体反応により変換されたルテニウム色素の中で紫外可視吸収スペクトルの変化が観察されたものに関しては、構造の大きな変化が起きていることが想起させる。現在これらの色素をDSCに適用し、光‐電気変換効率の向上が見られる色素を選別している段階である。 以上のように本研究の目的である微生物変換によるルテニウム色素の高機能化に関して、ルテニウム色素変換活性菌の取得と微生物変換色素の評価までを実施できていることから、計画は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は微生物反応により変換したルテニウム色素用いて、DSCの光‐電気変換効率を測定していき、効率の向上が見られる色素を選別する。その際に微生物反応液からの色素の抽出法の新規開発をすることで、色素の純化と高濃度化によるDSC光‐電気変換効率の測定感度の改善を行う。DSCの光‐電気変換効率の向上が認められたサンプルに関しては、以下の詳細解析を実施していく。まず変換活性のあった微生物を大量培養し、変換反応のスケールアップを行う。次いでHPLCやカラムクロマトグラフィーを用いてサンプル溶液より変換反応産物の分取精製を行う。精製した色素は質量分析計や核磁気共鳴(NMR)を用いてその構造を解析していく。 また引き続きルテニウム色素資化性菌のスクリーニングを継続し、より多種多様な微生物類の取得に努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は微生物菌体反応用試薬、酵素反応産物の分離・分析用試薬、DSC装置用の部品等の購入費に充てる。また国内・海外学会への参加を積極的に行い情報収集に努めるための旅費や参加費に充てる。
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