微生物や植物、動物が産生・含有する二次代謝産物が生物学において重要な研究ツールとなり創薬シーズとなってきたことは疑う余地の無い事実である。それらは特定の分子へはたらきかけ、特徴的な作用を示す。しかしその標的分子・経路を同定すること、化合物の有用性を評価することは、化合物とゲノム科学を組織的に融合するケミカルゲノミクス研究が盛んになってきた今日においても容易ではない。一因として、膨大なゲノム情報に振り回されているという事実がある。そこで本研究では、生理活性化合物の作用機序解析のために、2つのモデル微生物の生育必須遺伝子にフォーカスしてケミカルゲノミクス研究の基盤構築を推進した。 出芽酵母の生育必須遺伝子の発現量低下変異株からなる変異株コレクションを用いて生理活性化合物に対する感受性試験を行ったところ、作用機序未知のものでも複数の変異株が感受性の上昇を再現良く示し、効果的に標的経路が推測できる可能性を示唆していた。一方、分裂酵母についても複数の生理活性化合物において対応する標的遺伝子の発現量低下変異株が高い感受性を示すことを確認した。最後に出芽酵母と分裂酵母の結果を比較したところ、同じ現象を引き起こす化合物の場合でも感受性プロファイルが微妙に異なることが明らかとなった。当然ではあるが生育に必須な機能であっても遺伝子が重複していれば必須遺伝子ではなく、そういった遺伝子は破壊しても該当する機能を阻害する化合物への感受性は上昇しない。細胞極性を司るCdc42タンパク質の活性化因子もその代表例であり、本研究でCdc42の不活性化をすることが見出された化合物では、両生物のプロファイルを比較することで初めて標的経路の推測がなされた。依然として化合物の標的遺伝子を瞬時に予測することは容易ではないが、生育必須遺伝子を基盤とした生命のネットワークモデルが構築されれば、それが可能になると期待できる。
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