研究課題
ナノサイズ加工された金属ナノ粒子は、バルク材料とは異なる物理化学的特性を示し、様々な機能を発現する有用材料である。金属 ナノ粒子の反応特性は、粒子のサイズ、大きさによって顕著に変化する性質を有しており、ナノメートル空間での精密合成が求められ ている。近年、均一な金属ナノ粒子の生産場、さらに無機反応触媒環境として金属ナノ粒子含有タンパク質が注目されている。本研究 は、優れた金属代謝能を有するShewanella 属細菌の金属代謝機構を明らかにし、本菌の金属代謝能を積極的に強化することで、微生 物を用いた金属ナノ粒子合成系の開発を目指した。好冷性細菌 Shewanella livingstonensis Ac10 は、三価鉄(クエン酸鉄)誘導的にリン酸選択的ポーリンである PhoE ホモログが生産されていた。Real-time RT-PCR の結果、クエン酸存在下で PhoE の mRNA が2倍以上増加していたことから、PhoE は三価鉄存在下で、転写レベルで誘導生産されていることが明らかとなった。本菌の鉄呼吸における PhoE の生理機能を解析するために、phoE 遺伝子破壊株を作製した。phoE 欠損株 は、フマル酸存在下では野生株と同様に生育したのに対して、クエン酸鉄存在下では顕著に生育能が低下していた。以上の結果から、本菌は水溶性のクエン酸鉄を基質とした呼吸系において PhoE を介した三価鉄の取込が重要であることが示された。一方で、中国内モンゴル自治区草原土壌より、硝酸銀存在下で約 20 nm の銀ナノ粒子を形成する低温適応性 Pseudomonas 属細菌を獲得した。本菌の粒子形成に関与するタンパク質群を同定し、タンパク質工学・遺伝子工学的手法で機能強化を図ることで、効率的なナノ粒子合成系の基盤技術となることが期待された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、金属代謝能に秀でた低温菌 Shewanella livingstonensis Ac10 の金属呼吸に関与するタンパク質群を明らかにすることで、金属還元機構の分子基盤を解明し、微生物による金属ナノ粒子生産系への応用を目指している。平成24年度では、前年度に三価鉄誘導タンパク質として見いだしたリン酸選択的チャンネルタンパク質である PhoE について、三価鉄存在下における発現機構と、鉄呼吸における生理機能について解析した。その結果、PhoE の生産は転写レベルで制御されていた。また、PhoE をコードする遺伝子を破壊したとき、三価鉄存在下での生育速度が顕著に低下したことから、本菌の鉄呼吸において PhoE が呼吸基質となる三価鉄を細胞内の呼吸装置に輸送していることが示唆された。現在、Shewanella 属細菌の金属呼吸機構は、常温域を好む S. oneidensis MR-1 をモデル生物として、多くの研究成果が報告されているが、PhoE が関与する呼吸系については報告例がない。本研究では、水溶性の三価鉄(クエン酸鉄)を最終電子受容体として添加していることから、PhoE を介した鉄輸送は可溶性の金属酸化物を特異的に輸送する膜タンパク質であり、既知の金属呼吸装置とは異なる機構の存在を示唆しており、当初の研究計画を概ね達成しているといえる。一方で、不溶性金属酸化物代謝における PhoE の生理的役割や、PhoE を含む呼吸装置の全容は未だ明らかでなく、平成25年度に継続することとした。
平成24年度に、金属還元能を有する低温菌 Shewanella livingstonensis Ac10 が三価鉄誘導的に生産するリン酸選択的チャンネルタンパク質 PhoE について、鉄呼吸における生理機能解析を行った。その結果、従来知られている Shewanella 属細菌の鉄呼吸機構とは異なる呼吸系を本菌は有していることが示唆された。平成25年度は、呼吸基質の溶存形態による金属呼吸装置への影響について解析する。PhoE は水溶性の三価鉄(クエン酸鉄)存在下で、誘導生産されるが、不溶性の金属酸化物を基質とする呼吸系における生理機能は不明である。平成24年度に作製した phoE 遺伝子欠損株を、鉄もしくは他の金属酸化物を最終電子受容体とする培地を用いて嫌気下で培養し、金属酸化物の還元能、および生育能を評価することで、金属呼吸における PhoE の生理機能解析を行う。同時に、平成24年度に単離した新奇の銀ナノ粒子生産菌(Pseudomonas 属細菌)について、ナノ粒子結合タンパク質を同定する。粒子形成に関わるタンパク質をコードする遺伝子群を S. livingstonensis Ac10 に形質導入することで、金属還元能に秀でた本菌にナノ粒子形成能の付与を試みる。
平成25年度は、遺伝子組換え株の作製、および変異型タンパク質の調製を計画しており、そのために必要な試薬の購入にそれぞれ 30 万円ずつ見込んでいる。平成24年度の8月の集中豪雨による嫌気培養用チャンバーが被災したために、次年度に延長した嫌気培養用試薬、無機金属試薬購入費として、20万円ずつ、金属ナノ粒子合成に必要なガラス器具代として 30 万円を計上している。さらに、成果発表を行うための旅費として 40万円、論文投稿料として 10万円を見込んでいる。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Journal of Biological Chemistry
巻: 287 ページ: 24113-21
10.1074/jbc.M111.318311