1. ラクティシンQ(LnqQ)が形成する孔のサイズ測定と作用機構の解明 LnqQの細胞膜上における分子挙動を解析した結果、LnqQは両親媒性のα-helixを保持して負電荷の膜に直ちに結合した。また、flip-flopを伴い、直径4.6 nm以上の巨大な孔を形成して、菌体内の物質流出を引き起こした後、一部のLnqQ分子は膜の内部に移動した。このようなバクテリオシンの報告はなく、LnqQの作用機構をHuge Toroidal Poreモデルと命名した。 2. LnqQの選択性を決定する細胞膜成分の同定 LnqQはグラム陰性細菌外膜を透過できなかった。また、グラム陽性細菌を模したリポソーム(PC/PG = 5:5)と比較すると、グラム陰性細菌の外膜の内側に存在するフォスファチジルエタノールアミン(PE)と外側に存在するリポ多糖(LPS)をそれぞれ混合したリポソーム(PE/PG = 5:5、PC/PG/LPS = 5:3:2)では、LnqQの孔形成能はわずかに低下した。一方、外膜全体を模したPEとLPSを混合したリポソーム(PE/PG/LPS = 5:3:2)では、LnqQの孔形成能が劇的に低下した。しかし、LnqQは外膜に結合することも示された。よって、LnqQは外膜に結合はするもののPEとLPSが複合的に孔形成を阻害することが示された。動物細胞に豊富に含まれるコレステロール(Cho)および真菌に豊富に含まれるエルゴステロール(Erg)を含むリポソーム(PC/Cho = 9:1、PC/PG/Erg = 4:5:1)では、LnqQは結合するものの孔形成能は顕著に低下したことから、真核細胞の細胞膜中に多く存在するステロール類が、LnqQの孔形成を阻害することが示された。以上の結果から、LnqQの選択的抗菌活性は、標的細胞膜の脂質構成成分に依存することが明らかになった。
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