研究課題/領域番号 |
23658083
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研究機関 | 独立行政法人農業環境技術研究所 |
研究代表者 |
北本 宏子 独立行政法人農業環境技術研究所, 生物生態機能研究領域, 主任研究員 (10370652)
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研究分担者 |
吉田 重信 独立行政法人農業環境技術研究所, 生物生態機能研究領域, 主任研究員 (90354125)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 葉面常在酵母 / 付着 / 拡散 |
研究概要 |
課題担当者は、本課題着手前に、植物常在性酵母が、植物体分解酵素(PaE)と当酵素の活性阻害物質(MEL)を分泌することを見つけていた。植物常在菌は増殖・接着・拡散といった生活様式に分解酵素と阻害剤を利用していると仮定し、本研究では各物質の分泌時期や活性、局在と菌の形態や生理状態の変化を解析し、植物常在菌の生活様式におけるこれらの物質の役割を明らかにすることを目的とした。H23年度は、MELの役割を明らかにすることとした。MEL生産株と、MELを生産しない遺伝子破壊株を用いて解析した結果、MELは、(1)細胞の伸長と(2)固体表面への拡散、および(3)細胞の付着に必要であることを明らかにした。(1)細胞の形態:液体・固体培養で、MEL非生産株は、MEL生産株に比べて細胞が短く酵母状だった。MEL生産株は細胞が伸長し、菌糸状に連鎖・分岐した。大豆油を炭素源に用いた液体培地でMEL非生産株は、酵母状だったが、MELの添加により伸長し、生産株と類似の形態を示した。(2)表面への細胞の拡散:MEL生産株を籾殻やタマネギ表皮の上に滴下すると、菌糸状で高密度に表面を覆った。一方、非生産株では、植物表面の凹みの部分にだけ増殖した。MELは界面活性剤で、液体の表面張力を下げる効果がある。MEL生産株では細胞懸濁液が薄く広がるが、非生産株の懸濁液は、表面張力が高く、植物表面の一定の範囲に留まった。生きた植物体(切り葉)の表面でも、同様であったが、MEL非生産株にMELを加えると、菌は植物表面に拡散した。(3)表面への付着:プラスチック容器内で培養したMEL非生産株培養液にMELを加え、一定時間後に菌体懸濁液を除去した。容器に残存している菌の量は、MEL添加量に依存し、MELは、細胞を固体表面に付着させる効果があることを明らかにした。以上の結果から、MELの用途特許を1件出願した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H23年度は、葉面常在菌におけるMELの機能を明らかにした。MEL生産株と非生産株を用いて、液体培養と固体培養における菌の形態、付着、拡散にMELが鍵となることを明らかにした。既に、多くの葉面常在酵母がMELなどの界面活性効果のある糖脂質を生産することが知られている。葉面常在菌の生活におけるMELの役割は、普遍性が高い情報である。葉面常在微生物の培養により、MELは既に国内企業が大量生産して、化粧品に添加されている。今回、MELによる葉面への菌の付着と拡散機能から、用途特許を出願した。MELが容易に入手可能な状態なので、実用化できる可能性も高い。また、本年度得た情報から現在論文も作成中であり、順調に課題を実施できている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、植物常在菌により、MELが植物の表面で実際に生産されているか明らかにする。一方、植物常在菌は、植物体の表面を覆うクチン層を分解するクチナーゼ類似の酵素(PaE)を生産する。PaEは、MELによって活性を阻害されることを見つけている。H24年度以降は、MELとPaEの関係を明らかにする計画である。液体培養と固体培養の培養経過中でのMELとPaEの生産プロファイルと局在、PaEの活性を明らかにする。また、酵素とMELの生産自体に、互いの物質が影響を与えているのかを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度は、遺伝子操作の研究よりも培養による解析を先に行ったため、消耗品費の使用量が少なかった。H24年度は、PaEとMELの遺伝子発現解析を行うので、消耗品費を計画通り使用する。また、PaEとMELの生産プロファイルをH24年度に明らかにしてから、菌が各々の物質生産に代謝を切り替える様子を明らかにする。先に行う実験の結果から適切な培養条件を選定し、H24またはH25に、マイクロアレイを用いて、全遺伝子発現解析を実施する計画にした。これらの実験のために、研究補助も、H24~H25に重点的に配置することとして、予算計画の変更を行った。
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