研究課題/領域番号 |
23658086
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
菅原 康剛 埼玉大学, 理工学研究科, 名誉教授 (70114212)
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研究分担者 |
栗山 昭 東京電機大学, 理工学部, 教授 (00318156)
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キーワード | 植物 / 培養細胞 / 保存 / ガラス化 / バイオテクノロジー |
研究概要 |
本年度は、昨年度に引き続き、培養細胞を常温でガラス化させるために、細胞を生きた状態で含水量を充分に低下させる必要があり、細胞の乾燥耐性を高める条件について主に検討してきた。その結果、高等植物の培養細胞では、乾燥耐性を高めるために高濃度の糖を含む培地で細胞を前培養する方法が効果的であり、細胞によって最適な培養条件が異なるが、柑橘類培養細胞やイネ培養細胞のいずれも良好な結果が得られた。また、細胞の最適な乾燥条件も細胞によって異なり、柑橘類の細胞ではシリカゲル上での急速な乾燥により、細胞の含水量が0.06gH2O/gDWまで低下しても約80%の生存率があり、著しく乾燥耐性が高まったが、イネ培養細胞では、より緩慢な乾燥速度が効果的であった。細胞の前培養では、柑橘類では1時間の高温培養が乾燥後の生存率を高めることを既に明らかにしているが、さらにより最適な条件を明らかにした。特に、乾燥後の再吸水により紫外線(280nm)を吸収する物質が細胞から漏出するが、高温培養はこの物質の漏出を低下させた。これらの結果は、乾燥・脱水による膜障害が細胞の生存率を低下させていることを示唆しており、高温培養は膜障害を軽減している可能性がある。同様な乾燥による膜障害はイネ培養細胞でも観察されている。さらに、柑橘類では前培養の過程で高濃度のカルシウムを含む培地で培養すると乾燥後の生存率が増大することが明らかになった。これら前培養での処理は、乾燥後の再培養での細胞増殖にも効果がみられた。乾燥後の細胞の長期保存については、イネ培養細胞では、26Cでの保存はできなかったが、4Cでは1週間、-20Cでは1か月の保存が可能であった。一方、柑橘類の細胞では、半年間の保存後の生存率は23Cで約25%、5Cで70%、-33Cでは100%であった。これらの結果は、5Cで5年間の長期保存が可能なコケ培養細胞とは異なっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究計画」に挙げた、それぞれの検討事項についておおむね順調に研究が進み、用いた植物培養細胞について、乾燥耐性を高める条件、乾燥後の吸水・再培養条件等についてのいくつかの新規な結果を得た。これらはより多くの植物の培養細胞の長期保存の方法を確立するために重要である。また、本年度の研究では、現在までに明らかにした方法を用いて培養細胞の長期保存を試みた結果、従来にはない新たな成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究で、当初予測していた研究結果の他に、新たに明らかになったことが幾つもあり、これらが細胞の乾燥耐性、乾燥による障害の軽減、乾燥による細胞のガラス形成にどのような効果を及ぼしているかを明らかにする必要がある。既に一部の研究については現在進行しており、さらに多くの細胞の常温ガラス化による保存法の確立のためには、早急に結論を得るべきである。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究で、柑橘類培養細胞を常温でガラス化するために必要な細胞の乾燥耐性を増大させる条件について検討してきた。その結果、乾燥耐性を高めるための新たな培養条件が明らかになった。そこで、これらの条件での細胞のガラス転移温度等をDSCを用いて再度分析する必要がある。次年度の研究費は、主にこの分析のために使用する。
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