研究課題/領域番号 |
23658088
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
片岡 宏誌 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (60202008)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | Ghitm / ペルオキシソーム / ミトコンドリア / ノックアウトマウス / 脂質代謝 |
研究概要 |
本研究で取り上げるPGDR(Prothoracic gland derived receptor/GHITM (Growth Hormone-inducible transmembrane protein)は、昆虫と哺乳類からそれぞれ独自に見いだされた細胞内膜タンパク質である。PGDR/GHITMは、脂肪細胞(昆虫の場合は脂肪体と呼ばれる)で高発現していることから動物種を越えたエネルギー代謝を調節する基本分子である可能性が高い。また、マウスGHITMがペルオキシソームと思われる細胞内小器官に局在化するという予備的な結果を得ている。 そこで、GHITMの細胞内局在をさらに詳細に解析するために、新たにN末側、C末端側のペプチドに対するrabit抗体を作製した。N末側のぺプチドに対する抗体を用いて免疫染色を行ったところ、ペルオキシソームより、むしろミトコンドリアとの共局在を示した。さらに、生細胞におけるGHITMの局在をC末端にGFPを融合したGHITMを用いて調べたところ、ミトコンドリアにGHITMのシグナルが観察された。また、GHITMを過剰発現させたHeLa細胞では、ミトコンドリアトラッカーと共局在を示さず、GHITMがミトコンドリアのダイナミックな形態変化を制御している可能性が考えられた。これらの結果から、GHITMはミトコンドリアに局在し、ミトコンドリアの形態維持や機能維持に機能していると考えられた。 一方、GHITMの脂質代謝に関わる機能について解析するため、野生型マウスとGHITM遺伝子欠損マウスの肝臓および腎臓における脂質について比較したところ、肝臓においては、両者で目立った違いが検出されなかったが、腎臓においては、野生型と比較してGHITM遺伝子欠損マウスに顕著な脂質の蓄積が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで用いていたGHITMに対するChik抗体では十分な特異性が確認できず、失活している可能性が高いと判断した。そのため、局在を詳細に開始するために新たにGHITMのN末側、C末端側のペプチドに対するrabit抗体を作製を行うことに時間を要した。そのため、局在部位解析に関する実験の開始が当初予定より遅れてしまった。しかしながら、今回作製した抗体は特異性も高く、これまで局在が予想されていたペルオキシソームではなくミトコンドリアに局在している可能性が高いことを明らかにできた。 また、GHITM遺伝子欠損マウスの腎臓に、野生型と比較して顕著な脂質の蓄積が認めらたことを明らかにできたことから研究目的に沿った一定の成果を得られたと考えている。 研究が遅れた原因のもう一点として、今年度前半は東日本大震災の影響で計画停電や夏季節電対策のため機器の使用が制限されたことが挙げられる。年度後半にはほぼ正常に戻り、上記に述べた研究成果を出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画は今年度からの実験を継続するとともに、当初計画に沿って以下の実験を進める。1. PGDR/GHITMの有無によって変化する細胞内の脂質の同定。 2. PGDR/GHITMを介した遺伝子発現調節機構および脂肪細胞分化制御機構の解析 特に、当初注目していた脂肪組織以外にも、今年度の研究から脂質の蓄積が認められた腎臓にも注目し、ノックアウトマウスと野生型マウスのトランスクリプトーム解析を新たに実施し、GHITMの下流で働く脂質の蓄積に関与する遺伝子の探索を行う。また、GHITMのミトコンドリア局在と脂肪組織や腎臓での発現遺伝子との関連についても解析を進める。これによりPGDR/GHITMを介した遺伝子発現調節機構の解明を目指す。 一方、昆虫のPGDRについては抗体作りを進めているが、未だ特異性の高い抗体を得るに至っていない。次年度は抗体作製を継続するとともに、昆虫においてもミトコンドリアにPGDRが局在するか否かを明らかにする。また、機能解析ついても計画に沿って実験を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
東日本大震災の影響で電気使用に制限があり、実験機器が使用できない時期があったこと、さらに、これまで用いていたGHITMに対するChik抗体が失活していることが判明するまでに時間を要したことから本年度前半はほとんど実験が進まず、研究費の大半を次年度に繰り越すことになった。次年度は本年度予定していて結果が出ていない実験を順次進めるとともに、当初予定していた実験にも取りかかる。 特に重点を置くのは、LC-MS/MSを用いたノックアウトマウスに蓄積する脂質の同定である。また、GHITM遺伝子欠損マウスと野生型の脂肪組織ならびに腎臓のトランスクリプトーム解析を次世代シーケンサーを用いて行い、GHITMの下流で脂質の蓄積に関与する遺伝子の探索・解析を新たに予定している。そのために当初次年度予定していたよりも高額の消耗品費が必要となり、本年度繰り越した経費で充当する予定である。
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