研究課題/領域番号 |
23658091
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
奥村 克純 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (30177183)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 核マトリックス / 遺伝子発現 / 動物細胞 / 核内配置 |
研究概要 |
◎遺伝子発現と核内配置の関係について:遺伝子が発現することで核内配置を変えるかどうかを脂肪細胞の分化に伴って発現が誘導される遺伝子について解析した。すなわち,脂肪前駆細胞マウス3T3-L1細胞が脂肪細胞に分化する過程で発現が上昇する遺伝子をモデルとした。分化誘導過程で経時的に細胞からRNAを抽出し、RT-PCRによりPPAR-γ、Adiponectin遺伝子の発現状態を解析した結果,各遺伝子とも発現が上昇していた。次に、これらの遺伝子の転写活性と核内配置の因果関係を明らかにするために、DNA-FISHを行った結果、Adiponectin、PPAR-γ遺伝子領域ともに核内配置に変化は見られなかった。また、ハウスキーピング遺伝子であるγ-actinは、分化の過程で常に核の内側に局在する傾向にある一方で、Adiponectin、PPAR-γ両遺伝子は、決まった局在性を示すことは無かった。◎遺伝子発現における核マトリックスの役割:ストレス誘導できるHSP70遺伝子について転写誘導の前後におけるHSP70遺伝子と核マトリックスの相互作用について検討した。すなわち,HSP70遺伝子ゲノム中に存在するMAR配列やその他の部分の転写誘導前後における核マトリックス画分への局在の有無を詳細に検討した。その結果,HSP70遺伝子ゲノムのMAR以外の推定ループ構造部分は転写誘導開始直後から,核マトリックス画分に存在するようになり,遺伝子発現における核マトリックスの重要性を支持する結果となった。◎核内の空間配置を制御できる因子の検索と配置技術の開発:核内の空間配置を制御する技術の1つとして核膜に配置する方法を検討している。核膜に局在するラミンとGFPさらにはLacIとの融合タンパク質を作成し, LacIのLacオペレーター配列への結合を介して間接的に核膜に配置することを試みるが進んでいない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画に照らして核内過程における核マトリックスの役割については一定の成果が得られているものの,核内の空間配置を制御できる因子の検索と配置技術の開発については研究がベクターの構築や細胞への遺伝子導入,遺伝子発現の検出などで,予定通り進行しておらず,達成度は約60%程度と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
核内配置と遺伝子発現の関係や遺伝子発現における核マトリックスの重要性については,RNA-FISHなどを組合せさらに研究を進める。一方で,進行が遅れている遺伝子を核内の特定の場所に配置させる技術について,新しい方法を導入するなどして,課題を推進する予定である。具体的には,前年度に進まなかった項目を含め以下のように推進する。当初計画していたmRNAのプロセシング・細胞質への輸送効率化の検証については25年度に検討する。◎核内の空間配置を制御できる因子の検索と配置技術の開発:進行が遅れており,引き続き検討する。核膜に局在するラミンとGFPさらにはLacIとの融合タンパク質を作成し, LacIのLacオペレーター配列への結合を介して間接的に核膜に配置することを試みる。今後,別の方法も含めて核内配置制御技術を幅広く検討する予定である。◎遺伝子の核内配置の制御機構と転写における核マトリックスの役割ヒストンリジン脱メチル化酵素(LSD1)の役割:遺伝子発現や核内配置における核マトリックス重要性,遺伝子発現と核内配置については引き続き検討するが,さらに核膜付近の発現効率についてLSD1について検討する。LSD1をLacI等との融合タンパクとして発現させ,核膜孔付近に配置した遺伝子のクロマチン構造を活性化状態に保てるか検証する。◎空間配置の制御によるタンパク質生産性の向上:核膜孔付近に配置させることで,核内におけるmRNA輸送が必要なくなり,成熟mRNAの安定性が増すと考えられる。配置制御の有無でmRNAの核膜孔への輸送を担うTap/p15等をノックダウンし,その影響を受けるかどうかによって,核内輸送の効率化が行われたかどうか検証する。また,Exosomeにおける核内RNAの分解とスプライシングの効率についても調べ,効率が下がっている場合には,スプライシング因子を供給する方法も検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は研究が計画通りに進まず,結果として予算を繰越すことになったが,今後二年間の研究期間で達成度を満たすべく,計画通りに使用したい。 核内の空間配置を制御する技術を検討しているが,核膜に配置する場合には,核膜に局在するラミンとGFPさらにはLacIとの融合タンパク質の作成を試みている。しかしながら,この融合遺伝子の作製が上手く進まず,ラミン・GFP・LacI融合タンパク質を高効率に発現する細胞を取得するに至っていない。そのため,その後の細胞培養や種々の解析に必要な消耗品の購入に充てる予定の予算を大幅に繰越すことになった。次年度にはこの問題点を重点的に検証・解決することを精力的に推進しする。 次年度使用する経費は本年度からの繰越分を含め,設備品,消耗品費,旅費,謝金等その他である。設備品についてはデータ解析用ノートパソコン購入する。消耗品の内訳は,ソフトウェア,薬品として細胞培養に必要な培地,血清,遺伝子検出用の修飾ヌクレオチド,遺伝子発現用ベクター,DNA標識用や制限酵素などの酵素類,PCR関連試薬,核内因子検出のための各種抗体および蛍光標識抗体,分子細胞生物学用一般試薬等で,旅費は,研究手法の相談等で東京方面に2回,京都に2回出かける予定。謝金等は研究補助で大学院生のべ約100時間使用する。
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