研究課題/領域番号 |
23658091
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
奥村 克純 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (30177183)
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キーワード | 遺伝子発現 / 核内配置 / エピジェネティクス / 動物細胞 |
研究概要 |
遺伝子発現制御において,核内配置の重要性とともにエピジェネティクな要因が重要であることは明らかで,本年度はエピジェネティック修飾のうちDNAメチル化に関与するタンパク質を例に,発現ベクターの構築,細胞,大腸菌での発現とその性質を検討した。 ヘミメチル化DNA結合タンパク質UHRF1について,野生型のmouse UHRF1 (mUhrf1)とhuman UHRF1 (hUHRF1)に加え,アミノ酸置換体のそれぞれのcDNAを,HaloTagコード配列の3’側に挿入した発現ベクターをそれぞれ構築した。それぞれの発現ベクターをm5S細胞に導入後UHRF1を発現させ,核内局在を確認した結果,野生型ではS期中期にセントロメア周辺ヘテロクロマチン領域に局在したが,低メチル化処理細胞ではどの時期でも局在し,低メチル化によるこの領域の爆発的転写を支持するクロマチン構造の変化をとらえることができた。さらに染色体の安定性を調べるために,UHRF1-HaloTag融合タンパク質発現ベクター (pFN21A UHRF1-HT)をベースに,さらに転写活性の弱いプロモーター下でUHRF1-HaloTag融合タンパク質を発現できるベクター (pFN22K UHRF1-HT)を構築して発現させ,UHRF1が発現している細胞では核の形態異常が観察され,発現レベルが高い程異常な核を持つ細胞の割合が高くなることを明らかにした。 一方で,これらを大腸菌で発現できるプロモーターを持つ pFN18A HaloTag T7 FlexiベクターにcDNAを乗せ換え,構築したベクターで大腸菌をトランスフォーメーションし,UHRF1の発現誘導を行って,精製したUHRF1を用いてヘミメチル化DNAとの結合能を比較し,変異体との結合能の明らかな差を確認でき,機能を持つタンパク質が発現できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
核内の空間配置の制御については,発現べクターの構築や細胞への遺伝子導入,遺伝子発現の検出など,予定通り進行していないものの,当初の計画とは異なるが,遺伝子発現制御におけるエピジェネティクス制御ついて新しい知見が得られつつあり,達成度は約60%程度と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度であるので,以下の項目を精力的に行い,成果のとりまとめを行う。核内配置と遺伝子発現の関係や遺伝子発現における核マトリックスの重要性については,RNA-FISHなどを組合せ,さらに研究を進める。一方で,進行が遅れている遺伝子を核内の特定の場所に配置させる技術について,新しい方法を導入するなどして,課題を推進する。 ◎核内の空間配置を制御できる因子の検索と配置技術の開発:進行が遅れており,TALEN法を導入して検討する。 ◎遺伝子の核内配置の制御機構と転写における核マトリックスの役割ヒストンリジン脱メチル化酵素(LSD1)の役割:核膜付近の発現効率についてLSD1について検討する。LSD1をLacI等との融合タンパクとして発現させ,核膜孔付近に配置した遺伝子のクロマチン構造を活性化状態に保てるか,検証する。 ◎空間配置の制御によるタンパク質生産性の向上:核膜孔付近に配置させることで,核内におけるmRNAの輸送が必要なくなり,成熟mRNAの安定性が増すと考えられる。配置制御の有無でmRNAの核膜孔への輸送を担うTap/p15等をノックダウンし,その影響を受けるかどうかによって,核内輸送の効率化が行われたかどうか検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度使用する経費は前年度からの繰越分を含め,設備品,消耗品費,旅費,謝金等その他である。設備品についてはデータ解析用ノートパソコンを購入する。消耗品の内訳は,ソフトウェア,薬品として細胞培養に必要な培地,血清,遺伝子検出用の修飾ヌクレオチド,遺伝子発現用ベクター,DNA標識用や制限酵素などの酵素類,PCR関連試薬,核内因子検出のための各種抗体および蛍光標識抗体,分子細胞生物学用一般試薬等で,旅費は,研究成果の発表,情報・資料収集,研究手法の相談等で東京方面に1回,京都に2回,奈良に1回,横浜に1回出かける予定。謝金等は研究補助で大学院生のべ約100時間使用する。
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