動物細胞によるタンパク生産効率を上げるための本研究の着目点は,導入遺伝子をユークロマチン領域に配置させ,ユークロマチン領域の中でも転写が盛んな領域に遺伝子を組込むことである。一方,ゲノム領域のヘテロクロマチン化にはDNAの高メチル化が鍵であり,逆にエピジェネティック制御で低メチル化状態にできれば通常の遺伝子導入法でも遺伝子発現効率の高い細胞の効率的取得が期待できる。この研究過程でDNA低メチル化がDNA損傷の原因であるという重要な知見を確認し,遺伝子発現の配置制御による転写効率の高揚という本研究の主課題に加えてエピジェネティック制御異常によるDNA損傷の誘導という課題を本研究の副次的成果として研究を進めた。また,新たにゼブラフィッシュの系の導入を考え,細胞レベルの情報など,基本データを集めた。 まず,特定のゲノム領域を操作する方法としてゲノムの特定配列を認識して欠失させることができるCRISPR/Cas9システムの導入を検討した。ES細胞において高い効率で数kbから500kbの領域を特異的に欠失させることに成功した。DNA低メチル化に伴うDNA損傷の誘導については,新たに葉酸欠乏条件下で低メチル化が起こっていることをバイサルファイト法で確認し,「栄養因子の欠乏→ゲノムDNAの低メチル化→DNA損傷の誘導」という「食品栄養成分とエピジェネティクス」という研究領域の創出につながる基盤データを得ることができた。ゼブラフィッシュ由来培養細胞を用いて,細胞周期や核内複製動態と染色体上の複製部位の関係,複製フォーク速度を蛍光顕微鏡下に可視化・イメージングした結果,複製部位の核内配置は,哺乳類細胞に類似した5つのパターン分け(I~V)ができるが,核全体に均一に観察されるパターンIIが60%以上という特徴を示した。複製フォークの進行速度はヒト細胞と同等であった。
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